レバノンに新しい大統領が誕生した。日本人の興味を惹かないテーマなので簡単にまとめる。
- レバノンは共和制国家。レバノンは国内にキリスト教徒を中心とする多くの勢力を抱えている。
- このため大統領はキリスト教マロン派から選出することになっている。マロン派はカトリックと同じ教義を持つ。今回のジョセフ・アウン大統領もマロン派。
- 大統領任期は6年で行政権限を持たない。首相の人選を通じて影響力を行使する儀礼的な存在。大統領が不在だと首相を任命することができる人がいないため現在の首相は「暫定首相」と呼ばれている。
- レバノン南部にはパレスチナ人が流入し軍事力を持ったヒズボラが政治的な影響力を持ってきた。このヒズボラが大統領選挙を妨害していた。
- 今回ヒズボラは「サウジアラビアなどからの支援を得るためには大統領の選出が必要」だと説得を受けた。一部メディアは「アメリカの意向に従う大統領が選出された」と書いているがイランの影響力が削がれスンニ派と欧米が推す大統領が就任したと考えるほうが正しいかもしれない。
アウン新大統領は国内の武器をすべて国軍に集約すると言っている。これは具体的にはヒズボラに武装解除を求めてゆくという意味合いになるそうだ。アルジャジーラによればヒズボラが武装解除に応じることはなさそう。
ただし、これまでレバノンには暫定政権しかなかったために交渉主体が曖昧だった。今回の一件でイスラエルは北イスラエルに攻撃を加えるヒズボラを抑止するための交渉をするカウンターパートを得たことになる。このためイスラエル側は今回の大統領誕生を歓迎しているそうである。
- レバノン、新大統領に米国が支持する候補選出-イランの影響力低下か(Bloomberg)
- レバノン新大統領に軍司令官、米などが支援 ヒズボラ影響力低下(REUTERS)
- Who is Joseph Aoun, the new president of Lebanon?(Al Jazeera)
- Army chief elected Lebanon’s president after years of deadlock
(BBC)
シリアには「欧米がテロリスト」とみなす反政府軍中心の政権ができつつある。またシリア・レバノン両国の「安定」の背景にイスラエルの一方的な主権国家に対する攻撃他あったのもまた事実である。話し合いによる問題解決が難しく「力による現状変更」で地域が安定したという事実には複雑で許容しがたいものを感じるが、仮に強引な武力行使がなければレバノンにまともな政権が出来なかったというのもまた事実である。