FacebookやMetaがこれまでのファクトチェック方針を放棄した。今後はXのような「コミュニティノート」方式に移行する予定。要するにトランプ氏に接近するイーロン・マスク氏に屈服した形になる。
日本のSNS言論はアメリカのプラットフォームに依存しているためこうした混乱は日本の政治言論に直接の悪影響を与えることになりそうだ。
地上波放送に対する不信感が根強い日本では旧来「マスゴミ」と呼ばれてきた「オールドメディア」に対する風当たりが強くなっている。中居正広さんの騒動でよくわかったようにテレビ局には自浄作用はない。このため、今後も「オールドメディア騒動」は加速するだろう。とはいえフジテレビ対する強力なバッシングも起きていない。もはやテレビ局に清廉さを期待する人もいないようだ。
ではSNSが信頼できるのかということになるのだが、おそらくその信頼性は後退するだろう。Xに続いてMeta社がファクトチェックを放棄する。
日本ではSNSを規制するべきだという人たちがいる。しかしおそらくSNS規制は不可能になるだろう。イーロン・マスク氏はXを個人的な野心のために利用し始めていて、すでにヨーロッパの政治に介入している。今後はカナダの政治にも介入するかもしれない。
- 【解説】 なぜマスク氏は各国の政治に介入しようとしているのか(BBC)
- マスク氏の「口撃」を欧州首脳らが批判、24時間で4カ国から異議(BBC)
- スターマー英首相、「うそや偽情報の拡散」を非難 児童の集団性的搾取めぐるマスク氏の攻撃受け(BBC)
イーロン・マスク氏は「理想世界」構築に強い意欲を持っている。コミュニティ構築にも持論があるようだ。買収された当時のXは極端なマイクロマネジメントにさらされたそうでついて行けないという幹部や社員が次々に辞めているそうだ。
しかしながらイーロン・マスク氏のコミュニティに関する考え方はおそらく幼少期のルサンチマンに影響を受けている。極端な力による支配を好みヨーロッパの政治を混乱させている。
SNSの議論を誰が統制すべきなのかに関しては様々な意見が出ている。
「国が管理すべきだ」とする意見もあるが「国家が言論を統制すべきではない」と考える人もいる。
おそらくそれよりも問題になるのはマスク氏のアメリカ合衆国政治に対する強い影響力だろう。強いものに頭が上がらない日本の政治家がXの言論を統制するのは不可能になった。グローバル企業がアメリカ合衆国を味方につけて政府による言論統制を徹底排除。結果的に日本の選挙にポピュリズムが介在する余地を与える。
Xはブラジルで停止していた時期がある。ブラジルは反米色の強い左派政権なので実現できたことだが、同じことが日本で行われることはないだろう。Xは罰金を支払ってブラジルのサービスを再開している。
Facebookの検閲については次のような意見が出ている。BBCの記事の一節だ。
2日には、メタの国際問題担当責任者がサー・ニック・クレッグから、ジョエル・カプラン氏に変わった。著名な共和党員であるカプラン氏は、メタが独立したモデレーターに依存してきたことは、「意図としては適切」だったが検閲につながることがあまりにも多かったと指摘した。
フェイスブックとインスタグラムのファクトチェックを廃止、米メタが発表(BBC)
Quoraで政治フォーラムを運営して数年になる。
フォロワーが数千人を超えると様々な意見が出てくるが、英語版のプラットフォーム全体ではさらに様々な問題が出ていたようだ。Quoraは当初これをAIで処理しようとしたが「誤爆」も多かった。人の手で整理したとしても「過剰な検閲」が多く行われているのだからそれをアルゴリズム化するのはほぼ不可能だったといえる。
このためQuoraはフォーラム(Quoraではスペースと呼ばれる)を作ってモデレーション権限をユーザーに明け渡した。https://politics.quora.com/のように独自のサブドメインがもらえる。
全体の言論統制が出来ない以上はユーザー有志の自治に任せるのが最適解になるが、この「ユーザー自治」も必ずしもうまく行っているとは言えない。中には複数のモデレータが乱立し内輪もめを始めるところも出てきている。
国家による情報統制には「公共の福祉なのか国家による言論統制なのか」という問題を抱えている。アメリカのプラットフォームに依存する日本のSNS言論はアメリカの政治の混乱に大きな影響を受ける。こうなると「信頼できる情報ソース」は適切なモデレーションに頼るしかなくなるがコミュニティビルデイングの伝統がない日本ではなかなかに担い手も育たない。さらにオールドメディアであるテレビも倫理崩壊を起こし信頼を失いつつある。
一人ひとりができることは「石を一つひとつ」積み上げるように信頼できるコミュニティを作ることなのだが、おそらく中間所得者の地位の低下による民主主義社会の崩壊には間に合わないだろう。
今後しばらく私達はSNSの混乱に自力で対処する必要があり、選挙や政治はわかりやすくSNS世論に翻弄されることになるだろう。
Comments
“Metaが従来のファクトチェック方針を放棄 トランプ政権に屈服” への4件のフィードバック
昔は、SNSのような新しいIT産業に関わっている企業は、理想論を高く掲げているイメージが強く、所謂「左派的」な思想を持っている人たちが運営していると思っていました。しかし近年は、その認識は間違いだったのかなと思いました。
あとアメリカにおいて、DEI(多様性、公平性、包摂性)の取り組みを後退させているニュースを聞いて「本当はDEIをやめたかったのか、それともやめないとトランプ氏に近づくためにDIEをやめたのか、どちらなのだろう」と思いました。しかし、コストコが反DEIに対して「No」と言っているニュースを聞き、こういうことを言える企業もあるんだなと驚きました。
ジャック・ドーシーさんなんかを見ていると理想は高いけど算盤勘定は苦手という感じでしたもんね。なかなか理想主義と現実的な能力を兼ね備えている人はいないのかもしれません。
イーロン・マスクの理想世界は建前が全く無くて本音がむき出しのままでも
誰も咎める事が出来ないと言う物なんでしょう。
ああ言う人からすれば建前は口煩くて自分に楯突く邪魔者でしかないでしょうから。
これは理性を全否定する人達にも同じ事が言えるでしょうからそう言う人達が
好き放題やれる楽園が出来上がると言う事になります。
気に入らない奴をいくら苛めても差別してもお咎めが一切無くていくらでも
人を支配する快楽を味わい続けられる無秩序で力こそが全てな世界が。
トランプさんは自分のブランド価値を上げるために発言しているだけなので「芯がない」感じですが、マスクさんは実現したい理想を持っているので「芯」がある感じなんですよね。これが余計厄介な気がします。