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森山裕幹事長の「財源なき提案は無責任」はなぜ明確に間違っていると言えるのか

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森山幹事長が国民民主党を牽制する目的で「財源なき提案は無責任」と発言した。これを受けてYahooニュースのコメント欄では「財源」が取り上げられ炎上状態になっている。森山氏は国会の内部しかみえていないが、当然その向こうには苛立った有権者がいる。

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反応の対象となったニュースは森山裕幹事長の国民民主党を牽制する発言。各メディアが取り上げている。

森山裕氏は「財源論なき議論は国をおかしくする」と言っている。しかし国をおかしくしたのは政策を作れない自民党だ。政策がつくれないため過去の政策を持ち出してきて焼き直すしかない。岸田総理は池田勇人総理の所得倍増を持ち出したが結局それが何だったのかを国民が理解することはなかった。また石破総理も新列島改造だと言っているがこれは田中角栄総理の焼き直しだ。過去にうまく行った政策を押し入れから引き出して昭和の高度経済成長が再現するのなら誰も苦労はしないだろう。

次にトラスショックが起きるかもしれないと言っている。仮に起きたとすればアベノミクスの副作用であり自民党の政策の誤りによるものである。これを国民のせいにされても困る。

Yahooニュースの「コメント欄」を見てもまとまりのない意見が羅列されているだけである。Yahooニュースのコメント欄は対話のあるコミュニティではないため議論が焦点を結ぶことはない。議論が何らかの形になるためには対話とモデレーションが重要であるとわかる。

仮に国全体が貧しければ「財源なき分配は間違っている」という説が正当なものとされた可能性はある。ここで効いてくるのが先日紹介した「2025年の視点:改善する貿易収支と加速するデジタル赤字、円相場の需給を検証=唐鎌大輔氏」だ。熱心な読者はすでに内容を理解していただいていると思うが、改めて一節を紹介する。

その他の項目はどうか。第一次所得収支はプラス40兆円程度、第二次所得収支はマイナス4兆円程度と24年並みの仕上がりと考えておくのが無難だろう。しかし、残るサービス収支は注目したいポイントが2つある。1つが旅行収支黒字のピークアウト、もう1つがデジタル赤字の拡大だ。いずれも需給悪化を示唆する事実である。

2025年の視点:改善する貿易収支と加速するデジタル赤字、円相場の需給を検証=唐鎌大輔氏

ここに2つ大切なことが書いてあると気がついた人は多いだろう。

第一に日本にはプラス40兆円の所得収益がある。つまり国全体にお金がないわけではない。

Yahooニュースの「財源」に付いてのコメントを見てみよう。

森山幹事長は「今の税収の中からどうするか?」という議論に終止してるが、受けている側も同じ思い込みを抱えていることがわかる。国全体が「儲けている」中で、給与労働者を中心とする中間所得者が没落しているのが現状だ。

モデレーションも対話もないコミュニティは結果的に近視眼に陥るとわかる。

現在日本は債権取り崩し期に入っているとされている。

つまり過去の貯蓄で食べてゆく「老人」的な国になりつつある。日本全体を支配するトーンは「老後不安」なので、市場原理に任せていると誰もお金を使わなくなる。家の中にお腹をすかせている人がいる一方で預金通帳の中にはたっぷりと現金がありそれが利子を生み続けている状態だが誰もこれがおかしいとは思っていない。

国全体が老後不安を抱える状態を解消するためにはどうすればいいのか。そのためには国が資金を活用する「投資計画」を打ち出すのがもっとも手っ取り早い。これは戦後の立ち上がりから高度経済成長期の中央集権型の日本の得意技だった。

しかし「企業の海外資産を国が一括管理」という提案に賛成する人がどれくらいいるだろうか。

今までの履歴を見る限り国が介入した投資計画はどれも悲惨な結末を迎えている。そもそも経済活動から遠く離れている議員・官僚が多く「実務的な政策が作れない」ためである。

だから「国が主導する計画」に賛成する人は多くない。まずはここから改善する必要がある。

日本の問題はお金(財源もこの中に含まれる)がないことではない。持っているお金をうまく使いこなせていないことこそが問題だ。だから森山幹事長は明確に間違っていると言える。

第二の問題はデジタル赤字である。日本人はGAFAMと呼ばれる企業が提供するプラットフォームに依存している。言論プラットフォームだけでなくAmazonなどのように日本の小売りを圧迫している企業もある。ただこの問題を拡大するとそもそも一国の政府の力を越えたグローバル企業の問題と捉えることができる。

グローバル企業の台頭によって中間所得者が圧迫されると次第に有権者が感情的になり倫理を度外視するようになる傾向はさまざまなところで観測されている。

そもそも森山幹事長がグローバル企業の台頭にどのような知見を持っているのかはよくわからない。「高齢だからわからないだろう」などと書けば年齢差別だと言われかねないがやはり50代以下の政治家が意思決定の中枢にいないことは自民党や日本の政治に深刻な問題を引き起こしているのではないかと思う。

Yahooニュースのコメント欄に見られる感情的なレスポンスは欧米各国で右傾化の流れを作り出している。日本もこれに倣うのかが気になる。安易な想像は控えるべきなのかもしれないが「一応書いてみて」から後で修正することにしたい。

欧米の流れを見ていると、今後しばらくは中間層の感情的な怒りが先進国の政治を混乱させるのではないかと思う。

トランプ次期大統領が「力による現状変更を認めない」とする戦後アメリカが一貫して持ってきたポリシーを放棄した。それに加えて今後NATOに軍事力の負担を求めるものと考えられている。となると日本にも同じ要求をしないと考えるのは極めて不自然だ。

第二次世界大戦前の状況(ナチスドイツの拡大政策の容認に似た動き)に似てきたという話さえ出ている。第二次世界大戦はヨーロッパの問題がアジアに波及したのだから、中国の台湾侵攻が起こりやすい状況が生まれつつある、という人もいる。

さらに日本は「財源問題」を抱えている。岸田総理がバイデン大統領に約束した防衛費の財源が定まっていない。仮にトランプ次期大統領が日本に対して過剰な軍事費拡大の要求を突きつけてくると国民感情は自民党・公明党政権から更に離れるだろう。

すでに「財源」に関して感情的な反応が出ていることを考えると夏に予定されている参議院選挙で有権者が合理的な判断を下すことはないだろう。さらに石破政権が衆議院の運営に行き詰まれば衆参同日選挙が混乱する可能性もあるのではないか。

現在は「森山氏に対するブーイング」で済んでいるがこれまで選挙に行かなかった人たちがSNS世論に触発されて目覚めてしまうと単なるブーイングではすまされなくなる。

森山幹事長はこの世論の変化を掴みきれていない。自民党が生き残りたいならばもう少し若い世代に交代させるべきだ。

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