トランプ大統領が誕生した。橋下徹弁護士がいう「プライドの高いインテリ」であるところのマスコミは未だに納得できないようだ。意外とわかりやすい人だなあと思うので、トランプ大統領にはあまり興味がないのだが、身近にトランプみたいな人がいたらどうすればいいのだろうということを考えると意外と面白かった。
「トランプさん」はこんな人である。
- 全てが競走であり、競走には勝たなければならない
- 私たちか敵かという二項対立
トランプさんの世界には競走しかないので、トランプさんに敵だとみなされないようにしなければならないのだが、さらに危険なのは「なんとか抱き込める」と考えることだ。例えばトランプさんにアドバイスしたとしよう。するとトランプさんは「俺のほうがいいアイディアを持っている」と主張するだろう。そもそも、あなたのアドバイスを理解できないかもしれない。
ここがトランプさん理解の肝だ。
相手のアドバイスを理解するためには、まず相手が何を考えているかを理解しなければならない。相手には相手の世界があり、考え方の道筋があるからだ。普通の人はこれを自動的に行う。このパスを「共感」と言っている。ところがトランプさんはこれがわからない。逆に「共感の回路が壊れている」と考えるとトランプさんが理解できるのだ。
トランプさんの頭の中には「私」しかいない。アドバイスどころか、代わりにやってやるのもやめたほうがいい。「私のほうがうまくできるのに」と考えて腹をたてるだろう。逆に「やらせてみたけどうまくできなかった」ことにはあまり腹を立てないだろう。自分が世界で一番うまくやれると信じているトランプさんにとって、それは当り前のことだからである。だから、トランプさんには何もしてやらないほうがいいのだ。
トランプ大統領はマイクロマネージメントで知られる。これは彼が「自分の目の前にあることを自分でやりたがる」からなのだが、逆にいえば「自分の目に入らないこと」はないのと同じことだと考えているということになる。多分、トランプ大統領は4年の間競走に忙しく、その他のことに興味を持つほどの余裕はないはずだ。同じようにトランプさんたちは毎日の闘争に忙しい。それがトランプさんの幸せなのである。
ここからまとめると、トランプさん対応は比較的簡単だ。
- トランプさんにとって役に立たないし脅威にもならない無力な存在になる。
- トランプさんには期待せず、協力もしない。
トランプ大統領はクリントン候補のことをボロカスに言っていたが、もうライバルではないとわかった途端に「偉大なぼく」ぶりを見せるために寛容な態度を取った。逆に新しくショーの司会者になったアーノルドシュワルツェネッガー氏には敵意を燃やした。「俺のほうが視聴率を取れる」というわけである。
トランプさんが何かを勝手にやるぶんには構わないし、トランプさんが介入してきたら「なかったもの」として諦めたほうがいい。トランプさんが自分のアイディアを自分で遂行する分には「これはだめだったんだなあ」と気がつくわけで、それを待っていれば良い。トランプさんに何かを言われたら「逆らわず」に従おう。反論すればトランプさんは「勝つため」になんでもするだろう。
トランプさんが何かを言ってきたら褒めて欲しがっている証拠なので賛同しよう。かといって、自分の言葉で賛同するのは無意味だ。トランプさんはあなたが何を言っているのか理解ができないからだ。怠惰なわけではなく、その回路がぶっ壊れている。つまり、単に言葉を繰り返して賛同して見せるだけでいい。もしあなたが親切ならトランプさんの理論で賛成しよう。気に入られたくなってトランプさんより過激にトランプさんの理論を語りたくなる人もいるかもしれないが、それは無意味だ。そもそも人の話を聞いていないからである。
トランプさんはあなたが本当に何を考えているかは分からないし、多分興味もない。逆に怒っていても気にする必要はない。あなたが原因である可能性は低い。トランプさんは自分の世界を生きているので、大抵「敵」のことを考えて怒っている。
トランプ大統領は家族や身内を優先する政策を取っている。だから身内扱いされるにはどうしたらいいかを考えたくなるかもしれない。しかし、それはあまり意味がないのではないか。なぜならトランプ大統領は誰が身内かを自分の心証で決めており基本的にコントロールできない。同じようにアメリカ人の手にアメリカを取り戻すと言っているが、これも期待しないほうがいい。アメリカ人は「我々」ではなく、単なる競走の道具にすぎない。最悪、家族すら「自分を偉大に見せる」道具なのかもしれない。
トランプさんとブッシュ(息子)さんは、等しく「我々」について語る。しかし彼らのいう「我々」は違っているのではないかと思う。ブッシュ大統領は、明らかに信条(端的にいうとキリスト教だ)によって我々をくくっており、敵(悪の枢軸は全て非キリスト教国だった)には何をしてもいいのだと考えていた。だが、トランプさんは日々競走しているので、競走のために敵が必要なのだ。ブッシュさんの敵は変わらないが、トランプさんの敵は日々入れ替わっている。
ここまで書いてくると、この欠落に病名をつけたくなってくるが、こうした人格に病名はついていない。社会的に破綻しないからだろう。また、闘争に忙しいので悩んでいる暇はない。葛藤しないので社会生活が送れないほど落ち込んだりはしないのだ。
ここまで考えてくるとトランプ演説の最大の違和感が何だったのかがわかる。トランプ大統領は「アメリカはかつてないほど勝つ」と言っている。だがなぜ、勝たなければならないのかということは語られない。そもそもそこには理由はないのではないだろうか。さらに、アメリカを偉大にすると言っているが、何が偉大なのかということは語られない。トランプ大統領にとっては「相手に勝つこと」が偉大であるということだからだ。
そこに理屈はないので、あの演説をいくら分析しても全く無意味なのではないだろうか。