NHKで配偶者控除が廃止されるかもしれないという特集をやっていた。柳澤秀夫解説委員の話を聞くとこれを「わかりやすく解説する」のは無理だなと思い、池上彰さんならどういう解説をするのかと思った。
配偶者控除廃止には二つの目的がある。一つは安価な労働力であるパートを動員しやすくすることであり、もう一つは政府が税収や保険料を得やすくすることである。これが労働者・納税者にとって得になるためには「全体の給与」が上がる必要がある。
パート不足に陥っているのは日本経済が付加価値創出型から単純労働型に切り替わっているからではないかと仮説できる。正社員は付加価値を創造するために置かれているのだが、マニュアル通りに働く労働者さえいれば済む時代なっている。つまり全体の給与は減らせる方向にある。だから正社員はいらなくなり、従ってパートの妻も支えられなくなるという構造が生まれつつある。これにともない、旧来の保険料負担者の支払いが減るので、保険料の負担者も増やさなければならない。
つまり全体として負担は増えるのだから、制度改正は労働者・納税者にとっては損になるのだが、これを「個人で判断すれば損はしないかもしれない」と言っている点が「NHKの嘘」である。しかし、実際には正社員と自立する女性という家庭は「ありえないわけではない」のだから、個人の努力で何とかなるかもしれませんよと、プロパガンダしようとして失敗しているわけである。
さて、企業は日本市場から吸い上げたお金をどうするのだろうか。これは「内部留保」になる。とはいえ、内部留保という勘定があるわけではなく、海外に投資されることになるのだろう。日本はゼロ金利(これは国内で企業活動してもお金が利益を産まない状態を指す)だが、アメリカは金利が回復しつつある。トヨタやソフトバンクがこぞってアメリカへの投資を喧伝しているのはトランプ次期大統領に負けたわけではない。アメリカに投資したほうが儲かるのだ。つまり、あのニュースは富が米国に吸い上げられるということを意味している。「孫さんがトランプさんに会えてすごいなあ」という話ではないのだ。
日本はゼロ金利政策を放置することによって、日本からの資金がアメリカに逃避するのを手助けしていることになる。陰謀なのか無能さによるものなのかは定かではない。一つだけ確かなのは経済界はいうほど安倍政権に期待はしておらず、国内投資を進めないということだけである。安倍首相は誰からも信用されていないので、日本の金利は回復しないのだ。
こうした状況では日本企業は国内への投資を控えるほかない。投資には人件費も含まれるのだから給与は上がらない。わずかな成功例をダシにして「勝ち残り」の競争が起こることが予想される。国民を騙すのは簡単だなあと思う。ニュースを断片的に伝えれてお互いに競争させればよいわけだ。
実際にこの問題は、そもそも配偶者控除を受けられないパート同士のカップルという事態につながり、さらには家庭すら維持できない(したがって配偶者そのものが成立しない)個人という問題につながってゆくわけである。