カナダで財務大臣が辞任した。他の先進国ではもっと過激な動きが起きているため「大したことがない」ニュースなのだが、先進国全体のトレンドを掴むうえでは重要な動きだ。選挙で大きな影響を与える中流層に不満が溜まっており民主主義を採用する先進各国の政治は混乱期に入った。これを抑えるには財政を拡大するしかないという状況だ。
カナダは秋までに経済対策を出す必要があったが何らかの理由で遅れていた。
23―24年度の「秋の経済声明」の公表が大幅に遅れていたため、エコノミストやアナリストの間では財政赤字が目標を大幅に超えたのではないかとの憶測が広がっていた。
カナダ、財政赤字が目標を50%超上回る 財務相は辞任(REUTERS)
結果的に財政を拡大しなければ乗り切れないということになった。
カナダ政府が16日発表した報告「秋の経済声明」によると、2023―24会計年度(23年4月―24年3月)の財政赤字は619億カナダドル(約434億5000万米ドル)となり、フリーランド副首相兼財務相が昨年11月に公約した401億カナダドル(281億7000万米ドル)以下の目標を50%超上回った。
カナダ、財政赤字が目標を50%超上回る 財務相は辞任(REUTERS)
財務大臣はこの方針に反対していたと見られる。そこで「トルドー首相と方向性が合わなくなった」として辞任した。裏を返せばトルドー首相が政権を維持するためには財政拡大に依存せざるを得ない状況に落ちいっているということになる。
フリーランド氏はこの日、政府支出を巡るトルドー首相との意見の対立を理由として副首相兼財務相の辞任を表明した。
カナダ、財政赤字が目標を50%超上回る 財務相は辞任(REUTERS)
ではなぜこのニュースが重要なのか。
ドイツでは総選挙が決まった。財政拡大に反対する自由民主党が独自の経済政策を発表し連立与党が崩壊したのを承けたもの。フランスでは社会保障改革を訴える与党が左派と極右に攻撃され首相が退任している。韓国では与党「国民の力」が敗北し追い詰められた結果大統領が非常戒厳を発令し内乱罪に問われている。日本でも自民党・公明党が少数与党状態に陥り苦しい政権維持を迫られている。アメリカ合衆国でもバイデン大統領の経済対策に不満がたまり政権交代が起きている。イギリスも労働党政権が誕生したばかり。
ドイツ・フランス・韓国の予算は1月から12月までなので予算の締切に合わせて政権が崩壊した。尹錫悦大統領に至っては自ら李在明氏に「大統領ごっこ」の機会を与えている。
アメリカ合衆国では予算が成立しておらず10月からは暫定予算状態だ。今後バイデン大統領の政策は徹底的に潰されるものと考えられているがアメリカの国債発行は伸びる可能性がある。つまりバイデン大統領の予算拡張は「悪い予算拡張」だが共和党の予算拡張は「良い予算拡張」ということになる。
なぜこんな事が起きているのか。グローバル企業が膨張し中間層が没落しているという原因はある。だが例えば日本の場合にも交易条件の変化(日本で作って海外に売るというかつてのモデルの次を探すことができていない)ことや終身雇用型モデルが形骸化し国民の暮らしを支えきれなくなっているという事情がある。ドイツも同様だ。エネルギー価格が高騰し賃金も場傾向にあるため「EUの工場」としての役割をに担えなくなっているという。ドイツの政党は次のビジョンを打ち出すことができていないという状況は日本ときわめて似ている。
カナダの会計年度は日本と同じ4月からのため直ちに政治に大きな影響が出ることは考えにくいようだ。またアメリカ合衆国と違い予算が切れた場合は暫定予算が執行されることが多く即政府閉鎖とはならないようである。ただし、議会が予算を承認しないということはトルドー政権の政策を議会が信認しなかったことを意味するのだから、当然「総選挙を早めるべき」という要求はでてくるだろう。
トルドー氏は選挙対策のための予算を捻出しようとしたがフリーランド氏はトランプ関税に備えるべきという立場。このあたりも日本と状況が似ている。フリーランド氏はウクライナ語を話す自由党の女性有力政治家。人気凋落気味のトルドー氏と距離を置けば次期リーダーという目も出てくるかもしれない。
トルドー氏は、一定以下の所得の人を対象に250カナダ・ドル(約2万7000円)を給付する考えを示していたが、フリーランド氏はトランプ氏の関税政策に備えるため、財政拡張には慎重な姿勢だった。
カナダ財務相が辞任、支持低迷のトルドー政権に打撃…トランプ氏の関税政策対応巡り首相と対立(読売新聞)
先進国が軒並み予算を巡って混乱状況にあることを考えれば少数与党状態に落ちいった日本だけが例外でいられるだろうという見込みは立てにくくなる。
田崎史郎氏は「野党が不信任案を出す時期がいずれやってくる」としたうえでれいわ新選組が野党の枠組みに入っていないという点を指摘する。つまり予算不成立の上で総選挙も「ないことはない」がそのためにはれいわ新選組を巻き込んで野党すべてが協力する必要があることになる。
その意味では有権者の票の分配は実に巧妙ということになる。与党にも力を与えなかったが野党支持も分散しているため極端な行動が起きにくい「安全装置」が発動しているのである。
れいわ新選組(9議席)が参加しておらず、田崎氏は「キャスティングボードをれいわ新選組が握っていて、れいわ新選組が賛成すれば野党案が成立するが、野党は7党集まっても、成立させる数に足りない」ことが浮き彫りになったと指摘した。
田崎史郎氏 野党7結集に入らず、突然キャスティングボード奪ったまさか政党 国民維新でない 野党7では過半数以下→無力 今後の内閣不信任案を左右する勢力に(デイリー)
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