防衛増税に「先送り論」がでている。自民党・公明党政権は少数与党状態に転落しているのだから先送りになって当たり前だがマスコミはなぜか「浮上」という言葉を使いたがる。
しかし「先送り」は「将来税金は上がるのだから今のうちに消費に依存しない生活に慣れておこう」と考える人を増やすだろう。「ここは一旦撤回すべきでは」とかじると同時になぜこれほどまでにやり方が下手くそなのかと不思議に思う。
防衛増税先送り論が出ている。
国民民主党が手取りアップを標榜するなかで同時に増税議論を行えないというのがその理由だ。選挙で負けているのだから当然の結果と言える。しかしNHKの記事を注意深く読むと事実上の増税決定になっていることがわかる。つまり今から3年後の増税を「予約」しておこうということだ。
ここで「NHKは世論のミスリーディングを誘おうとしている!」と書こうと思ったのだが、NHKは意外ときちんとしていた。防衛財源の確保へ 再来年度から増税の案もとに検討 政府・与党というタイトルになっていて再来年の増税を今のうちに決めておこうとわかるタイトルになっている。
一方でこれに対抗しているのが産経新聞だ。「<独自>防衛財源、所得税増税の先送り論や撤回が浮上 政府・与党 詰めの調整急ぐ」と書いている。結局「何も決まっていない」ことが書かれているので何が<独自>なのかとは思うが「所属税増税撤回」もまだ選択肢としては消えていないようだ。
自民党税調としては時期はいつでもいいからとにかく将来の増税を決めてしまいたいと考えており、世論に対して「これでいいですよね?」とサウンディングしていることになる。Xでは今のところ防衛増税決定に反発する声は出ておらず一部で「財務省を敵視する」コメントが飛び交っているだけである。このままでは増税予約が実現してしまうかもしれない。
ただし、この「所得税増税の予約」と「先延ばし」は日本経済にネガティブな効果をもたらすだろう。可処分所得がなく消費にお金が回せない人はいる。しかしそれよりも多いのは「おそらくこれから税負担・社会保障負担は増えてゆくから今のうちから消費しない生活に慣れておこう」とする人たちだろう。
極めて卑近な例を挙げたい。
コンビニエンスストアの品揃えを観察してみるといい。働く人が多いエリアは新商品をきちんと並べているところがある。企業が売上を伸ばすために盛んにキャンペーンをしていてそれに連動している商品が置かれているはずだ。
ところが家の近所のコンビニやスーパーには「定番品」だけしかないというところがある。消費者が旺盛な消費傾向を持っていればCMなどを見て「新しい商品を試してみよう」と考える。しかし節約傾向が強まると「とりあえず生活に必要なものをできるだけ安く手に入れよう」という人たちが増える。次第に実際に新しい商品が出ても目に入らなくなってしまうのである。こうして社会全体から「無駄な消費=成長の源泉」が消えてゆく。さらにいえばこうした傾向が10年続くと「そもそも新しい商品を手にとって見た」経験がない新しい消費者というものが育ってゆく。
蜃気楼のように先送りされる増税は徐々に「消費マインド」を絞め殺すが、その傾向が経済統計に出てくるのはずっと後のことになる。だからこそシンクタンクのようなものを常時雇用してこうした傾向を継続的にモニターしなければならない。
では実際に今回の税金に関する議論は何を根拠にしているのか。
一つは自民党の税調で「インナー」と呼ばれる人たちのカンである。ところが今回自民党・公明党が過半数を下回ったことでこの「カン頼み」の制度設計が難しくなった。国民民主党は試算を要求したがでてきた資料は2枚の紙切れだけだったそうだ。
立憲民主党や国民民主党のような「自称政権を狙う政党」が独自の経済試算を持たないことは非常に罪深いことだと思うのだが、自民党・公明党が政権をになっている以上「緻密な試算」を出す責任は与党にあるといえる。しかし、おそらく今の自民党にはそのような試算を官僚に対して要求する意欲のある政治家はおらず、また自前でも計算ができないのだろう。
いずれにせよ選挙の結果として「日本にはマスタープランがない」ということがわかったは良かった。自公政権が続いていればおそらくプランがないままで漂流を続けていただろうし政権が野党に移っても同じような状況になっていただろう。
仮に国民が「手取りが増えた」と実感できれば消費が刺激され(明日から刺激されるということはないだろうが)税収が上向く可能性はある。しかし、そもそもマスタープランもない状態では大体な方針転換ができるわけもない。結果的に国民は「負担が増える明日」を想像し消費は冷え込み地方経済が疲弊だけだ。
日本の有権者と政治家がいつ「マスタープランの重要性」に気がつくかはわからないが、とりあえず「ない」ことだけはわかった。これまでよりはほんの半歩ではあるが前進したと前向きに捉えたい。