尹錫悦大統領の突然の戒厳令発表の余波が続いている。状況は極めて混沌としており不確実な情報も飛び交っている。
与党は大統領弾劾を避けつつ徐々に大統領との距離を置こうと考えており、野党は大統領が民主主義を破壊したという印象をつけたい。国民の敵扱いされかねない軍部は「全ては国防部長官が主導した」ということにして幕引きをしたいようだ。
死者が出なかったから気軽に論評できるという側面はあるが「まるで映画かドラマのような」印象だ。すべての参加者が保身のために立ち回っており誰が言っていることが本当なのかがさっぱりわからないのだ。
大統領の動機は「閣僚の弾劾などで追い詰められた末の行動だった」ということになりつつある。問題はこれを誰が着想したかだ。
現在主犯格とされているのがキム・ヨンヒョン国防部長官である。軍と国防部は「すべてはキム・ヨンヒョン氏の指示だった」と証言している。金龍顕(KBSと日本メディア)・金竜顕(CNNとREUTERS)・金容賢(KBSの一部記事)と漢字が混乱しているためカタカナ表記でお送りする。キム・ヨンヒョン氏はすでに辞表を提出し、国外渡航が禁止され・警察が捜査している。「真実が何だったか」はさておき、この人が主導したということにすればすべてが丸く収まるという事情がある。
首相は戒厳令を決める会議に出席していたとされているが何も情報発信していないそうだ。閣僚の辞表は受理されないまま。しかしキム・ヨンヒョン氏の辞表だけは早々と受理された。
保守系与党は朴槿恵大統領の巻き添えになりセヌリ党が崩壊したというトラウマがある。このため韓東勳代表は徐々に距離を起きたい考えだ。弾劾手続きには参加せず大統領選挙を先延ばししなおかつ尹錫悦大統領を切り離したい。
与党の韓東勲代表は党の幹部会議で「混乱による国民と支持者への被害を防ぐため、可決に至らないよう努力する」と表明。弾劾が革新系最大野党「共に民主党」への政権交代につながることを防ぎたい考えも示した。一方で、「違憲の戒厳令を擁護しようという意味ではない」と述べ、尹氏の離党を要求した。
大統領弾劾案、与党は反対方針 7日採決、謝罪要求も―警察が前国防相の捜査着手・韓国(時事通信)
国民の力にとって最大の脅威は世論だろう。緊急世論調査の結果7割が大統領弾劾に賛成しているそうだ。
戒厳軍の動きも徐々にわかってきた。ワイドショーでは「北朝鮮対策部隊が突然国会選挙を命じられて戸惑った」「国会占拠がスムーズであれば戒厳令の無効化はできなかっただろう」などと伝わっていた。だがその後「中央選管へのストーミングが優先された」とする報道が出ている。
もともと尹錫悦氏は朴槿恵大統領を追い詰めた実績をかわれて文在寅大統領に起用された。しかし刃物のような人だったため攻撃の矛先が政権と「共に民主党」に向かってゆく。この頃から「共に民主党は北韓と共謀する反体制勢力である」という主張をしている。
今回、尹錫悦大統領とキム・ヨンヒョン氏を警察が取り調べていることからも分かる通り、尹錫悦大統領が人脈を持つ出身母体の検察の捜査権は大幅に制限されている。つまり大統領自らが「軍隊を使って」「検察のように」「選挙の不正」を暴こうとした可能性があるということになる。
正義のために猪突猛進していれば良い検察官と数々の妥協が要求される政治家では全く話の進め方が変わってくる。その意味ではそもそも尹錫悦氏を大統領候補にした時点で「国民の力」は間違っていたと言えるのかも知れない。文在寅大統領は任期満了直前に検察の権限を制限していたがこれも正解だったと言えるだろう。
ただし「テレビにない真実がネットにはある」派の人たちは「メディアが一斉に反尹錫悦非難」に傾いていることに疑惑を感じてしまうかも知れない。
革新系野党「共に民主党」の大統領候補である李在明氏には数々の不正疑惑があり、実際に有罪判決も受けている。また野党が多数派を握ったため閣僚弾劾を武器化していたのも事実である。つまり「どっちもどっち」という側面はある。自分たちにもやましい所あるからこそ極端な手法で尹錫悦大統領を追い詰めようとしてた側面は否定できない。
ただ、保守系政党にもやましいところはある。保守系与党の朴槿恵大統領にも疑惑があった。つまりどっちもどっちという事情がある。この政治不信を裁くために期待されたのが危ういところもあるが突破力がある検察出身の尹錫悦氏だったのだろうが、やはり刃物は刃物だった。最終的に彼が壊そうとしたのは既得権益ではなく民主主義だったのだ。
今後7日に弾劾決議案の審議が行われると報道されている。野党は弾劾賛成で団結しているが韓東勳代表は配下の議員を国会に参加させないのではないかと言われているそうだ。8名以上の造反が出るか、あるいは国民世論を敵に回してでも弾劾を阻止するかに今後の注目が集まる。
石破総理は重大な関心を持って事態の推移を中止しているそうだ。外国の出来事とは言え、我が国の安全保障にも大きく関わる政局と言えるだろう。来年はトランプ大統領が就任することが決まっているため、日米韓協力の姿は大きく変わるかも知れない。