韓国で戒厳令騒ぎが起きているころフランスでも大きな動きが起きていた。バルニエ内閣が出した予算に対する反発が起こり左派が出した不信任決議に極右国民連合が同調したことで内閣が総辞職した。日本時間の午前4時にマクロン大統領が声明を出し「大統領として辞任はしない」が「新しい組閣を急ぐ」としている。
状況は流動化しており「何が起きるかわからない」ということがわかっている。
フランスの状況混乱を受けてユーロが下落していたが下落は一旦止まったようだ。しかし12月21日の期限までに予算案が可決される見込みは限りなく低くなっており、仮に予算が成立したとしても財政再建は難しいだろうという見方が有力になっているという。
フランスの状況は韓国の状況に酷似している。
韓国は少数与党状態で閣僚の不信任(弾劾と表現されている)が乱発されていたが、フランスも少数与党状態で予算が通りにくい状態が続いていた。マクロン大統領は総選挙で事態の打開を図るが極右国民連合と左派がそれぞれ躍進し、穏健右派(共和党)とマクロン氏の改革派連合は少数状態に置かれていた。アタル首相は選挙敗北のため辞任している。
左派が首相職を熱望していたがマクロ大統領はそれを許さず穏健右派・共和党のバルニエ氏を首相に選出した。バルニエ氏は社会福祉削減などの歳出削減を優先したがこれが左派と極右から反発されることになる。一時は憲法の規定に従い強制的に予算を通そうとしたがこれに反発した左派が不信任決議案を出していた。
日本人ならば内閣が倒れる可能性があるのだから財政再建を諦めたほうがいいと考えるのではないだろうか。しかしフランスでは逆に相手の意見を飲むくらいなら総辞職のほうがマシという判断になったようだ。フランスの政治状況は日本人からは理解が難しい。
ただ、議会の不信任案可決は1962年以来の出来事だそうだ。これを受けてバルニエ内閣は辞表を提出し先ほど受理された。韓国の政治混乱も1980年以来の出来事と言われた。「現代にこんな事が起こるとは」という状態も「今後何がどうなるかわからない」という状況も共通している。
強気路線のマクロン大統領は万策尽きた状態である。財政再建を諦めて穏健な予算を組むか辞任して総選挙を行うという選択肢があるが、これまでの経緯を見ると「態度の軟化」は難しいのではないかと思う。
韓国で新しい大統領選挙が行われれば李在明氏が大統領になる可能性がある。しかし李在明氏にはすでに有罪判決がでており現在控訴中だ。フランスも実は同じような状況にある。新しい大統領になる可能性がある国民連合のルペン氏は現在訴追されている。フランスには「公民権停止の仮処分」という制度があるそうでルペン氏側には「大統領選挙を急ぎたい理由」がある。
おそらくルペン氏は「自分が大統領になるために予算を政局化しようとした」と非難されたくないのだろう。あくまでも予算案に問題があるとしたうえで「マクロン氏の辞任を求めるわけではない」としていた。あくまでも私利私欲ではなく「大義のために」というわけだ。
仏テレビ局TF1のインタビューで、ル・ペン氏は、バルニエ氏を排除する以外に「解決策はない」と語った。一方で、「私はエマニュエル・マクロン氏の辞任を求めているわけではない」とした。
フランスで内閣不信任案、62年ぶり可決 バルニエ首相の就任3カ月で総辞職へ(BBC)
マクロン大統領は声明で「大統領は辞任せず」に「新しい首相をすぐに任命する」と表明している。今後組閣を通じてどの程度極右・左派と妥協するつもりがあるのかがみえてくるのかもしれない。仮に強気路線を押し通しても同じことが繰り返されるだけになる。
フランスの政局の流動化はいくつかの国際情勢に大きな影響を与える。
隣国ドイツでは年明けの総選挙が行われるがウクライナへ支援削減を求める勢力が伸長する可能性がある。ルペン氏が率いる国民連合もおそらくウクライナ支援には消極的だ。
さらにトランプ次期大統領が近々フランスを訪問することになっている。トランプ氏は有罪評決を受けているため国によっては入国が難しい状況だが(日本もその一つとされている)フランスはわざわざノートルダム大聖堂の再会式に招待したそうだ。文化事業を政治利用しトランプ次期大統領の心象を良くしたうえで協力を促したい考えなのだろう。
本来ならばウクライナ支援に消極的なトランプ氏に対して支援継続を説得するのがマクロン大統領に期待された役割になるのだが国内の政治基盤が脆弱化しており成果を期待するのは難しい情勢だ。
マクロン大統領は2期目で再選がない。2期目の終了は2027年5月ということなので不安定な状況は暫く続くかもしれない。外交で成果を出し任期を維持したいところだろうが国内の状況がそれを許さない。