尹錫悦大統領が突然非常戒厳を発令し今も混乱が続いている。人々の関心は「なぜこんな事になった」のかと「これからどうなるのか」に向かっている。このエントリーはなぜこんな事になったのかについてわかっている情報を調べた。
TBSは「失うものがなくなった」と言う意識の反映であるという現地報道を引用している。支持率が低迷し予算も通らなくなった大統領が自暴自棄な「無敵の人」になってしまったという説だ。
尹錫悦氏には前歴がある。革新系の文在寅大統領は朴槿恵大統領を追い詰めた経歴を買って尹錫悦氏を検事総長に据えた。保守系野党の攻撃の武器として利用しようとしたのだ。しかし尹錫悦氏は文在寅政権にも牙をむけるようになってしまう。そこで文在寅大統領は検察から捜査権を奪おうとし(これは後に一部成就している)尹錫悦検事総長が辞任している。
このときから尹錫悦氏は「共に民主党=現在は多数派の革新系野党」を憲法秩序の破壊者として捉えるようになったものと考えられる。捨て身の辞任のあと敵対勢力だった「国民の力=現在は少数派の保守系与党」と組んで大統領候補になり李在明氏を破って大統領に就任した。つまり、一度は起死回生に成功しているのだ。
しかしやはりこれはかなり雑駁な議論と言えるだろう。
現在、キム・ヨンヒョン国防部長官(国防大臣・国防長官に当たる)が主導したのではないかという説が出ている。メディアによって漢字に揺れがある。日本のメディアは金龍顕と書いているがKBSなど韓国語メデイアの日本語版は金容賢と書いている。
軍の側は「国防部長官が序列第一位の軍人にも知らせずに大統領と直接やり取りをして非常戒厳を主導した」と主張している。ケーブル局JTBCは国防部長官は大統領の高校の先輩であると付け加えている。
ナム・ウィキのまとめによると国防長官は陸士38期のトップだったが内部昇進が止まってしまい合同参謀本部作戦本部長どまりだった。後に尹錫悦大統領の警備責任者となり国防部長に昇進し軍を指揮する立場になっている。
国防部長の審査のときには戒厳令について聞かれ「民主化の時代にはそぐわない」と発言していたとKBSは伝えている。
高校の先輩であることがなぜ重要なのかを韓国のメディアは伝えていない。儒教社会で年齢序列がある韓国では「職場」にもその関係性が持ち込まれることがある。韓国では当たり前の習慣であり特に説明の必要も感じられないのだろう。わかりやすく言うと「アニキ(ヒョン)」を信頼して頼ってしまったということだ。
国務委員の関与については情報が確定していない。国務委員(内閣の閣僚に当たる)の辞任にあたっては一部の委員は計画について知らされていなかったと伝えられているが、渦中のKBSは韓悳洙首相ら閣僚は事前に非常戒厳を話し合う会議を行っており中止も閣議で決まっている。大統領府のスタッフたちも事前に知らされていなかったようで幹部に辞任の動きがある。
いずれにせよ仮に軍隊の幹部たちが知らされていなかったとすると突然上から非常戒厳が降ってきて「国会を封鎖しろ」と明示されたことになる。軍は命令を守って国会の開催を阻止するかあるいは認めるかという判断を迫られることになった。韓国は皆兵制度のためつい最近まで市民の側にいてまた市民生活に戻るという人が多数含まれている。
日本では「なんだたった数時間の戒厳令か」と揶揄する声もあったが、仮に職業軍人中心の軍隊で国防部長官に軍隊内での人望があれば議会制圧ができていた可能性もあるということだ。韓国はほんの数時間でもかなり緊迫した状態にあった可能性があるといえるだろう。
Comments
“尹錫悦大統領の唐突な反乱に「無敵の人」説と「国防部長官主導」説” への2件のフィードバック
韓国みたいな徴兵制度は国民の負担が大きいし、職業軍人と比べると練度や士気とかに不安があると感じていましたが、それがあの戒厳令時に市民に対して発砲しなかった要因だったならば、結果的には良かったのかもしれませんね。
北朝鮮と対峙するなかで国民協力は欠かせませんからね。高校の同窓生3人で話し合ったとする説も出てきていますからそういう事情が見えなくなっていたのかも知れません。