石破茂総理はAPECのついでにアメリカに立ち寄りトランプ次期大統領と会談しようとしたようだが先方から断られたという。日本では「やはり石破ではダメだ」という声や「大統領に就任するまで会わないと言っているのだからマスコミに煽られてはいけない」と様々な声が出ている。日本人がトランプ次期大統領と我が国の関係に不安をつのらせていることがわかる。
石破総理がトランプ氏に会えなかった理由はいくつか考えられる。
第一にトランプ氏は「戦争を終わらせる大統領になる」ことを目指している。このため戦争のない地域には興味がない。
第二にミレイ・アルゼンチン大統領と会っていることから自分を最大限に称賛してくれる人を優先して記憶している。極めて自己愛が強い。だが単に称賛するだけではダメでトランプ氏が考えるある理念に合致していなければならない。反知性・反WOKE(意識高い系)的な行動様式を共有している必要があるのである。
第三に石破茂総理がわざわざ英語で発表したアジア版NATOの話が伝わっている可能性がある。アメリカに対抗するためにアジア各国で協力してトランプ大統領が最も嫌う「多国間連携」を画策していると思われても仕方がない。
そもそもトランプ氏の優先順位が低いうえに、トランプ氏が嫌いそうな構想を持っており、なおかつトランプ氏の理念にも合致しないという点から「会えなくても当然」と言ってよいだろう。
では、安倍晋三総理大臣であったらトランプ氏に会えただろうか。おそらく答えはノーであろう。トランプ氏が最初に大統領になったときにはまだ右も左もわからない状況だった。このためトランプ氏は既存の共和党エスタブリッシュメントに依存していた。安倍晋三氏もすでに国際政治での経験があったためトランプ氏にとっては「利用できる人物だった」といえる。
しかし政権運営が進むとトランプ氏は徐々に自信を深めて行き経験者たちを疎ましく思うようになっていった。結果的に彼らは放逐されている。今回の選挙戦でトランプ陣営にいた共和党系の人たちがハリス氏を支持しているのはそのためだ。安倍総理も「うまくやっていたつもりだろうが、もうそうはいかない」と関税報復の対象になっている。
識者たちの声を総合すると鍵になるのはスーザン・ワイルズ氏のようである。古株の共和党員で伝統的な共和党支持者たちが何を好むのかを熟知している。首席補佐官に任じられる際に「誰と会って誰と会わないか」をコントロールすることを要望したとされており、トランプ氏の知り合いがトランプ氏に何かを吹き込むのを阻止したいようだ。
トランプ氏サイドが「大統領になるまでは会えません」と言ってきたとしてもその文章を作文しているのはスーザン・ワイルズ次期トランプ首席補佐官である可能性が高く額面どおりに受け取るべきではないだろう。
一連のトランプ人事ついてはQuoraで連日お伝えしている。だが、どうやら日本人には理解が難しいようである。
例えば司法長官候補やその他の候補者たちは司法省やFBIなどを破壊・解体すると宣言している。日本の次期首相が財務省や法務省を解体し「検察をすべて入れ替える」などということは起こりようがなく、日本人には想像が難しい世界だ。
日本人は形式民主主義は絶対だと信じる傾向があるようだ。「民主的なプロセスにしたがって専任されている以上は暴力ではなく合法的な政権交代だろう」と言う感想を持つ人がいた。日本人の想像力には常識的な枠がありその外側にあるものは除外されてしまう。不安耐性が極めて低いための自己防御という意味合いがある。
しかし、実際の民主主義は「有権者が望めば政府を暴力的に解体するのもまた是にされる」という暴力的な側面を持つ。単に多数決の結果が優先されるということが保証されているだけでその手段が平和的なものなのか暴力的なものなのかは問わないというのが民主主義である。
このためアメリカでは民主主義のプロセスを使って相手を攻撃する手法が広く用いられており「司法の武器化」などと表現されている。この「武器化」の概念は普段から英米系メディアに接している人にはおなじみだが、日本人には理解が難しいだろう。
また、体制の破壊があまりにも急激に進んでいるために情報飽和が起き「間を日本人の感性で埋める」ということが起きているようだ。非常に興味深いと感じる。
ただし「暴力的な改革願望」は日本でも都市住民の間にも広がりつつある。
11月17日はいみじくも兵庫県知事選挙の投開票日だ。兵庫県の有権者がどのような投票行動を取ったかで「公務員の痛みを伴ってでも改革を推進してほしい」と密やかな願望を持つ都市住民たちの願望がどの程度広がっているのかを知ることになるかもしれない。
また国民民主党・玉木雄一郎代表の「財務省・総務省抵抗論」にも「財務省を解体すべきだ」という声が出ている。玉木代表はむしろこの声を抑えようとしているが果たして抑えきれるのかという気がする。それほど強い圧力がかかっている。
いずれにせよ石破総理がトランプ次期大統領と円満な関係を築ける可能性は殆どないと言ってよい。またトランプ氏を「裏から懐柔する」戦略はおそらくトランプ次期大統領の逆鱗にふれることになるだろう。
本当にトランプ氏に気に入られたいなら他人の利益を無視して傍若無人に振る舞いトランプ氏にだけは忠誠を誓うような態度を取る必要がある。個人的にはそうまでしてアメリカにへつらう必要があるのか?という気もするが、トランプ氏に共感する日本人は意外と多い。あるいは日本もトランプ流に振る舞うべきと考える人は増えてくるのかも知れない。