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106万円の壁をなくす理由を厚生労働省が更新

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106万円の壁をなくす理由を厚生労働省が更新した。いわゆる丁寧な説明というやつで「これに騙される」人も出てくるだろうと大笑いしてしまった。結果的に国民民主党が提唱した「手取りが増える政策」は最低賃金付近で働くパートには当てはまらないことになり「せっかく手取りが増えると期待したのに国民民主党の提案は嘘だった」と批判されることになるだろう。部分連合が取り沙汰されており政権の延命に協力するだけの政党だったということになる。

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国民民主党の政策の基礎は「インフレになれば税制や社会保障の基準値もインフレしなければならない」というものだ。税の基準値が相対的に低くなるブラケットクリープという現象に対する対策。

これを理解できる人と理解できない人が出てくるのは「インフレ」が理解できる人と理解できない人がいるからである。100円のものが110円に値上がりした場合に「物の価値が上がるとお金の価値は相対的に下がる」のがインフレなので、インフレが進むと税や社会保障の基準値も相対的に下がってしまう。だから調整が必要になる。

今回の説明で厚生労働省は次のように言っている。

現在、最低賃金が1016円以上なのは東京など12都府県。全国で最も低い秋田(951円)など残る35道県でも現在の賃上げペースが続けば、来年にも1016円以上に達し、賃金要件が全国で事実上撤廃される。

厚生年金要件、「週20時間」のみに 「106万円の壁」解消へ―厚労省

つまりインフレが起きて最低賃金が値上がりするので事実上意味がなくなるので廃止しますと言っている。ここが今回の「嘘」になる。

  • インフレが起きたのだからその分だけ基準値を上げてゆく

べきなのだ。

ではこの主張は正しいのか?ということになる。実はこのあたりが非常に厄介だ。そもそも今回の議論にはなぜ106万円の壁が作られたのかについての経緯の話が出てきていない。

実は個人的に106万円の壁の手前で厚生年金に入っていた経験がある。大学生の数年間のバイトだったが「意識高い系の企業(ちなみに新聞社だった)」ために温情で入れてくれたのだ。当時は年金に対する信頼は厚く「会社がサポートしてくれるのだからトクをした」と感じたものだ。なので厚生年金に入ることじたいを「悪」と決めつけるつもりはない。だが所詮学生のアルバイトであり「生活を支える」という切実さもなかった。

日本には標準家庭という考え方がある。お父さんが働いて子どもと妻が家計を助けるために働くという考え方である。特に妻は「補助労働」の担い手であり夫の厚生年金に加入していれば良いという考え方があった。これが終身雇用制だ。だがこの制度はすでに形骸化しており「形骸終身雇用」といった状態になっている。

ところが年金財政が逼迫するとできるだけ多くの加入者に年金を支えて貰う必要がある。また、飲食・流通などのサービス系企業は本来補助労働者だったパートに頼ることになった。海外との取引のない企業は国内の冷え切った市場の影響を受けるため人件費を抑える必要がある。これは全国展開するチェーン店でも個別レストラン・宿泊業でも同じことである。

利幅の薄いサービス業にとっては夫の会社の厚生年金にフリー・ライドして安く主婦労働者を雇用できたのは都合が良かった。さらに補助労働が広がることで本来はメインの労働者であるべき男性が補助労働に留め置かれしたがって結婚できないという事例も増えてきている。これらは少子高齢化問題に接続する。

結局「形骸終身雇用制をどう整理してゆくか」という極めて面倒な話に行き着いてしまう。ドイツでは産業競争力を維持しつつ収入差別をなくすためにかなり大胆な労働市場改革をやっている。ドイツの場合は近隣諸国との競争力強化と賃金が下がった場合の格差の問題があった。これを政治家が話し合った結果「これでどうでしょう?」ということになり有権者が受け入れることで政策化が実現している。

日本にはこのまとまって話し合いをする辛抱と文化がないのだ。このため自民党は国民民主党の要求に苦慮し、地方税収は減り、最低賃金近辺に張り付いた国民生活は良くならず、物価高に苦しめられるという誰のトクにもならない状態が生まれている。騒げば騒ぐだけ問題が大きくなってゆくのでAIでも作って自動計算してもらったほうがマシという気もしてしまう。政治家はもう一人としていらないのではないか。

国民民主党に騙されたという人が出てくるだけであればいいのだが時事通信にはこう書かれている。壁がなくなったことで厚生年金に入ってくれればいいのだが「20時間以内に抑える人が出てくるのではないか?」という。つまり年収の壁が月の労働時間の壁に変わるだけということになってしまう。最低賃金は物価高に合わせて調整されているだけで豊かになっているわけではないので「余計生活が苦しくなる」ということになる。

パートで働きながら、「第3号被保険者」として保険料を免除されてきたサラリーマンの配偶者は、106万円の壁が解消することで保険料負担が新たに生じる。負担増を避けようと週20時間以内で就業調整する可能性もある。

厚生年金要件、「週20時間」のみに 「106万円の壁」解消へ―厚労省

厚生労働省は壁を乗り越えるための賃上げを求めてゆくとされているが、最低賃金だけでも「もうお店をたたむしかない」という声が聞かれる。一時的な補助金で解決するような問題ではないだろう。

いずれににせよ労働者から見ると

  • 最低賃金が上がったと政府はいうが生活は楽になっていない(物の値段のほうが急に上がっているのだから当然だ)
  • 野党が議席を取ったから手取りが増えると期待していたのに結局手取りは下がった、騙された

ということになってしまう。

特に国民民主党に期待したパート労働者の人たちは騙されたと感じるだろう。そして、有権者はニュースを見て「これは論理的にどういうことだろう」などと考察したりはしない。

ただこの「論理的に考えられない」のは一般有権者だけではないようだ。

立憲民主党の議員の中にも議論について来れなくなった人がいて「メリット・デメリットを踏まえた議論」を要望している。プロフィールを見ると現在法律の理解を深めるために通信制の大学に通っていらっしゃるそうだ。向学心は立派だと思う。が、勉強が終わってから議員になったほうが良かったのではないかと思う。

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