隣の家に新車が納入された。あなたが一生かけても手に入れられない車だ。ぶち壊してやりたいという気持ちはあるが手出しはできない。社会的に批判され警察に捕まる。では国家権力がやってきてその隣人をぶちのめしてくれたらあなたはどう思うだろう? 今回はそういうお話である。
国防総省がトランプ大統領が無茶な命令をしてきたときにどのような抵抗ができるか検討を始めた。トランプ氏の計画によればアメリカ国籍を持つ不法移民の子孫(つまりアメリカ人)に銃口を向けざるを得なくなる可能性があるが、そればかりではなく暴動の鎮圧に動員される可能性もある。
リベラル系メディアCNNが「アメリカ国防総省がトランプ氏対策を始めた」とするニュースを出している。CNNはリベラル系のため「トランプ氏の悪い側面を強調するきらいがある」ことは確認しておかなければならないが、過去の経緯を考えると杞憂とも言えない。
問題は良心や合衆国憲法秩序に照らして関係者たちが「正しい行動」ができるかである。これが疑問視されている。CNNによればトランプ氏にはいくつかのマスタープランがある。
プロジェクト2025:トランプ氏とその陣営は関与を認めていないが、アメリカの高官を総入れ替えするという計画だ。人材バンクを作っておきトランプ氏に提案するという内容。
アジェンダ47:中には大統領令を変更し出生地主義を放棄するという計画が含まれる。トランプ氏は不法移民排除に「いくらお金がかかっても構わない」「軍隊を使ってでも実現する」と言っている。また過去にはメキシコの麻薬戦争に米軍を介入させる構想もあった。
スケジュールF:政治任用のスタッフだけではなく、その他のメンバーたちにも「愛国心」を求めるというもの。トランプ氏の考えによれば「愛国的な人」とはつまり「自分に忠誠を誓う人」ということになる。
CNNによるとアメリカ国防総省のスタッフたちは「エスタブリッシュメント」としてトランプ氏から敵視されているという。しかしながら、思い通りに軍隊を動かしたがるトランプ大統領を食い止めていたことも確かだ。
記憶に新しいのが2020年の反人種差別暴動事件である。トランプ氏は連邦軍の介入をほのめかしたがスタッフたちがそれを阻止している。アメリカ軍がアメリカ人市民に銃口を向けることなどあってはならないと伝統的な軍人たちは考えてきた。
しかし仮に第二期トランプ政権でプロジェクト2025やスケジュールFが成功すると連邦秩序を重要視する人たちはことごとく「反トランプ的」とみなされ放逐されてしまう可能性がある。
そもそも軍の関係者が取りうる対策は限られていてせいぜい抗議の辞任をするくらいのことしかできない。辞任すれば当然「トランプ氏に忠実な人」が軍隊内に増えることになる。
別の国防当局者は、「軍は違法な命令には従わないことが法律で義務付けられている」と指摘。「だが問題は、そのときに何が起きるのかだ。軍の高官が辞任する事態になるのか、それとも辞任すれば国民を見捨てることになると考えるのか」と問いかけた。
米国防総省、トランプ氏の物議醸す命令に備え対応協議 当局者
では、アメリカ国民はこれに反対するだろうか?というのが次の疑問となるだろう。もちろんハリス氏を支援した人たちは反発するだろう。が、内心ではトランプ氏を支援している人たちが大勢いる。
前回までの選挙で世論調査があまり当てにならなかったのは「トランプ氏の政策」を支援していてもそれを人に言えないという人たちが多かったからである。しかし民主党の理想主義的すぎる政策のために庶民の生活が苦しくなり企業経営も圧迫されるなかトランプ支援を打ち出すことはそれほどタブーではなくなっている。今回カリフォルニア州などではハリス氏を支援する人が多いものの「やっぱりあの打ち出しでは政権が取れないだろうと「内心思っていた」という人たちがあとから増えている。
格差の拡大は冒頭に挙げたような市民の嫉妬心も刺激しているものと思われる。これまで「意識高い系の」民主党政権下で「いい思いをしてきた人」を叩きたいという気持ちがある。さらに「自分より下の存在」を作ってそれをイジメたいという気持ちも蔓延している。
移民はその格好のターゲットになってしまう。合法だろうが不法だろうが関係ない。
例えば「犬や猫が食われている」という流言ではハイチ系移民は「不法移民」とされたが実際にはドキュメントを持った合法移民だった。こうした人達を叩くことで溜飲を下げたいという人が今のアメリカ合衆国にはたくさんいるのだ。
すでに黒人やヒスパニックを狙った誹謗中傷も始まっている。CNNによると黒人の子供たちに「あなたは綿花摘みのプランテーションに選ばれたのでXX時までに農場に出頭するように」というメールが20州に渡って送りつけられているという。ヒスパニックに対しても「強制送還が決まった」というメールが送られているそうだ。
今回の選挙では経済政策に期待してトランプ氏に投票した黒人やヒスパニックも多かったが、実際には彼らは「狩られる」ターゲットになっている。マジョリティの市民たちの溜飲を下げるための格好の獲物になっているのだ。アメリカでは地方の警察官がこうした気持ちを持つことがある。トランプ政権の人種暴動はトランプ政権への恨みではなく警察に対する敵意が原因になっていた。
おそらく「誰かが堕ちるところを見て溜飲を下げたい」という人は増えており、そのための行動が「愛国的」とみなされる可能性が高い。確かに軍の中には抵抗する人たちも出てくるだろうが「反アメリカ的」とみなされて政府や軍の要職から追放される可能性がある。
トランプ氏の経済政策は企業よりのものが多く、物価対策も「関税さえかければアメリカの権益は守られる」という乱暴なものだ。生活苦に苦しむ有色人種が何らかの暴動を起こしたときその鎮圧に軍が導入される可能性が具体的に取り沙汰されるところまでになっているということになる。
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