予算成立を前にしてドイツの連立内閣が突然崩壊した。有権者たちにとっては驚きの出来事だったようだが背景には大きな政府と小さな政府という根本的な対立があり破綻は不可避だったようだ。
ショルツ首相は1月15日の信認案提出と3月の選挙を考えているようだが、野党は「今すぐ信認案を上程せよ」と要求している。つまりドイツの政府運営に穴を開けるわけには行かないという主張である。
ドイツの連邦予算にはウクライナ支援予算が含まれる。トランプ氏がウクライナ支援を打ち切ることも予想されておりヨーロッパの外交と安全保障にも影響が出そうだ。
ドイツは社会民主党・緑の党・自由民主党の連立内閣だ。前者2つが左派だが左派だけでは政権を成立させることができず新自由主義政党を加えた連立政権となった。首班はショルツ氏(社会民主党)で経済担当大臣は緑の党からでている。
ことの発端は自由民主党のリントナー党首(財務大臣・自由民主党党首)が出版した政府批判文書だった。リントナー氏は後に「出版するつもりはなかった」と釈明しているが「事実上の離婚届」と解釈された。
しかし、なぜ今になってリントナー氏はこの様な文書を出したのか。
ドイツの連邦予算は1月から12月までが会計年度となっている。このため12月末までに予算案を成立させなければならない。左派2党は財政拡大を主張している。つまり借金を増やして苦境を乗り切りたい。しかし自由民主党の支持者たちは小さな政府主義者だ。つまりリントナー氏が予算を成立させると支持者が更に離反することが予想された。このため夏にまとまるはずだった予算案の合意は行われず「ついには締切に間に合わない」という事態に陥ったのだ。
予算成立に協力できないリントナー氏が窮余の策として「自由民主党の立場」を明確にし世論に訴えた。ショルツ首相にはリントナー氏の言い分を飲み財政拡大を諦めるか総選挙に打って出て自由民主党を追い出すという選択肢があった。ショルツ氏は自由民主党の支持率は落ちているため「今なら追い出せる可能性がある」と踏んだようだ。
しかし、ポリティコによるとそもそも連立政権の支持が低迷しているため、野党が政権に返り咲く可能性が高いそうだ。
本来なら「2025年予算が立てられない」ことや「選挙をやった結果として支配政党が出てくるのか」ということが話題になりそうなものだがその様な記事が見つからない。予算案成立前に降って湧いたような騒ぎとなりそんなことを考えている余裕はないようだ。
ドイツの基本法によると予算が成立しない場合には前年度予算を元に最低限度の支出をすることは認められているという。このため「予算が成立しない」ことに対するパニックは最低限に押さえられている。
REUTERSによればもともと連立政権は夏までに予算案を成立させる予定だったがこれがうまく行っていなかった。今回議会が混乱したことで2025年の半ばまで予算が成立しない可能性があるのだという。
国際社会の関心事はドイツのウクライナに対するコミットメントだが「最低限の支出はカバーされる見込みである」とREUTERSは伝えている。
しかしながら「暫定予算」は前年の予算に従って限定的に支出されるだけである。つまりトランプ氏が1月に大統領に就任しウクライナ関連の予算をすべて切ってしまった場合の対応なども想定されていない。
また「アメリカが支援を打ち切った場合にドイツがそれをかぶる用意ができているのか」という問題もある。現状を見ているとそれは極めて難しいのではないかと思う。そして、経済が低迷している国はドイツだけではない。
なお野党のキリスト教民主同盟は「政治に空白期間を作るわけには行かない」から早期に信任投票を実施するように求めている。うまく行かないままで連邦政府の運営を任されても困るということなのだろう。
Merz’s call is piling up pressure on Scholz, who had announced his intention to lead a minority government consisting of his SPD and the Greens with the aim of passing key bills, including a 2025 budget, before the end of the year.
Germany’s Merz urges Scholz to drastically move up timeline for snap election
文中に「信任投票」という言葉が何回も出てくる。ドイツでは内閣が勝手に議会を解散することはできない。ただし首相が議会に信認を求め過半数を割り込んだ場合(つまり不信任が出た場合)には解散する仕組みになっている。日本とは制度が逆になっているというわけだ。今回の場合、ショルツ氏がリントナー氏を切ったことで「自由民主党は内閣を信任しない」と見られているために、信任投票=総選挙ということになる。