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日本の新しい課題「政府が解決できない供給制約」

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最近気になるニュースがあったが「典型的な事例」がないためお伝えできていなかった。それが政府が解決できない供給制約問題だ。経済の基礎知識がない人は「何それ?」と考えるだろう。要するに工場でモノを作って海外に売ろうと考えてもその元手(これを資本という)になる工場が作れないという話である。つまりお金儲けできないので賃金が上昇しない。また自民党が得意としてきた公共事業による地方へのバラマキもできなくなる。

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台湾のある受託半導体メーカーがSBIとの提携を断ったそうだ。日本で工場を建てるコストが4倍になるという。原因は建設資材と人件費の高止まりである。受託生産なのでコストは競争力に直結するのだろう。

日本での工場建設には台湾に比べコストが4倍かかることなどを理由として挙げた。

日本のコスト、台湾の4倍 SBIとの提携解消理由―PSMC

建設資材と人件費の高止まりは万博の費用高騰でも問題になっていた。また最近では東京・南関東圏でマンションの価格があがっている。建設資材・人件費の高止まりに加えてまとまった土地も確保できないのだという。一方で、湾岸地域などの一部は外国人(確たる根拠はないが中国の富裕層が中国国内から資産を流しているのではないかと思う)の需要があり価格が高騰している。

結果的に住宅供給が抑制され価格が高止まりしている。この傾向はしばらく続くものと見られる。TBSと朝日・アベマの番組をご紹介しておく。

これらの問題には共通する要因がある。だが、「日本の供給制約問題」についてまとまった議論をしているのを聞いたことがない。

自民党・公明党政権の経済観は独特のものだ。経済をデフレマインドとコストプッシュ型インフレに分類したうえでそれぞれ違ったミクロ政策を実施している。自公政権の特徴はまとまったマクロ経済見通しの不在にあるといえるのかもしれない。だが立憲民主党にもまとまったマクロ経済理論は存在しない。

では、この問題に政府は対応できるのか?ということになる。

まず考えられるのは安価な労働力の供給だ。つまり外国から人を連れてくれば良い。だが技能実習システムは行き詰まっている上に労働者は賃金が高い海外に流れてしまう。そもそも日本で英語ができる若者さえオーストラリアに流出している。

建設資材の高騰については、建設業界で様々な意見が飛び交っているが政府がこれを分析し対策を検討したという話は聞かない。

このように「そもそもまとまった知見がない」のが現状だ。マクロ経済に対する分析を行う習慣がない日本では手っ取り早い対策が優先されてきた。

第一に簡単な土木関係の仕事を全国に割り振る公共事業が好まれる。民主党政権時代に仕分けの対象として公共事業が敵視されるようになると二階俊博幹事長のもとで「これは国土防衛なのだ」というまやかしの言い換えが行われ「国土強靭化」と名前が変わった。しかし、そもそも建設資材が高騰しまとまった人手が手に入らないのだからこの国土強靭化もまもなく破綻するだろう。

次に「人々が消費しないのはマインドのせい」と考えて「何らかの補助を出して消費を刺激すればデフレからの脱却も難しくないだろう」とする考え方も根強かった。政府が選挙のたびに補正予算を組みたがるのはそのためだ。現金は使われないとして「クーポン」を配るという方式も好まれてきた。これは公明党のお気に入り政策である。

だが、お金儲けしようとしてもそのための装置が作れないという問題は構造的なものであり「国民の気の持ちよう」とは何ら関係がない。

結果的に地方はお金儲けのための工場を建てることができず政府の公共投資にも頼れない。また都市部の住民は手頃な住宅を手に入れることができず安心して子育てをすることが難しくなってゆくだろう。総合的な国家運営戦略がないというのは恐ろしいことだ。

何も決めずに場当たり的な政策を繰り返してきた政治が招いた大惨事ともいえる。だが政局報道を「政治」だと考える人達はしばらくこの問題には気が付かないのではないだろうか。

冒頭に紹介した記事は気になることも書かれている。「日本政府」は工場が定着することを前提にした事業計画を求めていたようだ。記事には書かれていないが何らかの補助金を出してもすぐに工場を操業停止されると困ると考えていたのではないかと思う。いわゆる補助金の食い逃げである。

「日本政府による10年間の量産継続要求に責任を負うことができなかった」という。台湾の中央通信社が伝えた。

日本のコスト、台湾の4倍 SBIとの提携解消理由―PSMC

日本政府から見れば「補助金のもらい逃げ」なのだろうが台湾のメーカーは「政府に手足を縛られたくない」と考えたのかも知れない。経済産業省の役人にとって見れば責任回避のための措置だったのだろうが動きが激しい世界の半導体事業の現状をよく把握できていなかった。トランプ氏は「台湾はアメリカから半導体市場を盗んでいる」と指摘しており、トランプ大統領誕生で関税が強化されると台湾のメーカーは工場を海外移転(例えば関税のかからないアメリカに工場を移す)などを即断しなければならないだろう。つまりマクロ政策だけでなくミクロの政策でも日本の政府(厳密には政党ではなく官僚だが)の意識が追いついていないのだ。

つまり補助金によって工場を誘致するという政策も事実上破綻していることになる。

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