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ロイターの「米中プラザ合意」の記事から改めて考えるプラザ合意の意味

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ロイターが「コラム:為替巡る米中「プラザ合意」、トランプ氏勝利なら可能性
」という記事を書いている。記事自体はトランプ氏勝利という仮定の前提の立った空想のようなものだが色々と興味深いことがわかる。

日本では陰謀論めいた語られない「プラザ合意」だが中国は「日本が失われた30年に突入した原因だ」と考えているそうだ。

中国は日本の失敗から学び経済低迷を回避したいのだろうが実際には日本と同じ失われた数十年への入口にいる。

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日本でプラザ合意が失われた30年の原因だと表立って主張する人は少ない。アメリカが日本の凋落の原因を作ったことになってしまう。アメリカには逆らえないという気持ちが強く「もう日本は成長しないがそれは仕方がない」という受け止めになってしまうだろう。このためアメリカの意向で日本の成長が止まったというストーリーは陰謀論にカテゴリーされてしまう。

このコラムはトランプ氏が大統領になれば日米貿易摩擦対策として打ち出されたプラザ合意のような取引を中国に持ちかけるのではないかとしたうえで、中国側は受け入れないだろうと書いている。その理由として中国は「日本はプラザ合意を受け入れたことで経済が停滞したと分析しているからだ」と言っている

記事はプラザ合意は日本凋落のきっかけであるという点には合意している。

結果的に製造業依存だった企業の力は削がれたが日本の購買力はみるみるうちに上昇する。結果的に財務部が営業利益ではなく経常利益で企業収益を確保する構造が作られ資産バブルが発生した。つまり政府の政策とは関係がないところで金融緩和が勝手に起きてしまったのである。

資産は主に海外の不動産に向かうのだが一部は日本国内の土地の価格を釣り上げた。つまり本来価値がないものに大きな価値がついた。このため大蔵省の通達をきっかけに急激な巻き戻しが起きている。これがいわゆる「バブル崩壊」だ。

日本の産業構造の前提だった製造業優位が崩れたのだから政治はそれなりに産業構造を変える努力をする必要があった。だが、政治家たちはそうはしなかった。庶民が住宅価格の高騰に苦しむなか政治家たちは資産バブルに乗ったリクルートコスモスの未公開株を喜んで受け取る。

プラザ合意を決めたのは竹下登大蔵大臣だそうだが彼はその後で総理大臣になり消費税の創設を決めている。消費税と引き換えに全国の市区町村に1億円をばらまいた。これをふるさと創生事業と言っている。地方自治体は1億円と引き換えに日本の未来を売った。だがこれは結果的に自民党が下野する要因になっている。

結果的にバブルは崩壊し自民党は政治とカネの問題を総括できずに下野した。大蔵省が総量規制をしたのが1990年。バブルが崩壊したのが1991年から1992年にかけてだった。非自民の細川内閣が誕生したのが1993年である。

当時の日本には2つの選択肢があった。

  • プラザ合意とバブルを総括して先に進むという選択肢
  • 総括せずなんとなくやり過ごすという選択肢

現在は「総括しなかった世界線」の延長線上にある。

ロイターが「コラム:衆院選が左右する日銀追加利上げ、植田総裁「闘い」に直面も=熊野英生氏」というコラムを出している。

石破内閣がかろうじて続けば総括はないもの金融正常化に向けた動きが続くだろうが、高市政権ができればそれが巻き戻されてしまう(つまり持続可能性がないアベノミクスが続く)と見ている。さらに熊野氏は「野党が政権を取ったらどうなるか予測もできない」と匙を投げる。

与党が過半数を割って、与野党の間での政権交代が起こるとすれば、マーケットは混乱するに違いない。そのさらに先も様々なシナリオが描けるのだろうが、それらを予測するのは筆者の手に余る。

コラム:衆院選が左右する日銀追加利上げ、植田総裁「闘い」に直面も=熊野英生氏

なんだ無責任だなとも思うのだが竹下内閣から細川内閣を経て村山内閣に向かう経緯を考えると国民生活そっちのけで政界再編が始まる可能性は大いにあるといえるだろう。本日書いた山崎拓氏と石破茂氏の関係を書いた時事通信の記事は「選挙後の政界再編」の可能性について触れている。

いずれにせよ自民党はアメリカの言う事を聞いて政権を維持することと自分たちの議席についてしか心配していない。だが、野党の政治家も「どうすれば政権に潜り込んで美味しい思いができるか」しか考えていないのかもしれない。

なお躍起になって日本の失われた30年を回避しようとしてきた中国も順調に日本化の道を歩み始めているようだ。

まともな経済統計がない中国では庶民の生活実感で状況を探るしかない。表向きは中国の経済は+4.6%の成長ということになっているそうだが、北京のケーキ屋は「消費は目に見えて悪くなっている」と感じているそうだ。TBSが北京で暮らす日本人のケーキ屋を取材している。

中国は都市の生活を地方から出てきた人々が支えるという二重構造になっている。この外には中国語=漢語が話せない人たちがいる。地方生活者はギグワーカーとして保障のない暮らしをしている。配達業界で働く彼らはアプリの評価で収入が決まってしまう。時間内に配送しなければならないというプレッシャが日に日に厳しくなっており「崩壊寸前」だという。これはCNNのレポートだ。

富裕層は中国を離れ、一般庶民は「贅沢はできなくなったが下には下がいる」と考える。だが地方から都会に出稼ぎにやってきた人たちの生活は崩壊しかかっておりこれが治安の悪化に直結する。

中国はなぜか30年前の日本と同じ状況になりつつあるがその社会崩壊の内容は日本とは大きく異なる。

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