石破茂氏の背後にいるのは岸田文雄前総理なのではないかと指摘する人がいるが、時事通信は興味深い記事を書いている。そもそものきっかけを作ったのは山崎拓氏だと本人が主張しているという。
この記事にはなるほどと思わせる点がいくつもある。さらに、このあとの政治がどう動いて行くかをある程度読み取ることもできる。結果的には増税になる。
この記事にはもう一つの着目ポイントがある。そこに有権者の姿がまるで見えない。
時事通信が「石破政権は維持できるか、衆院選後は政界再編も? 山崎拓氏が明かす自民総裁選の政治ドラマ【解説委員室から】」という記事を書いている。山崎拓氏が後援会で語ったとされる内容に加筆したもの。加筆部分は青字になっていて山崎氏の主張と区別されている。
後援会による氏の主張によれば、山崎拓氏が政権のもとになる土台を作り石破氏に総裁選出馬を勧めた。その後小泉内閣の同窓会が開かれその場で石破氏に対する説得が行われたそうだ。
山崎拓氏は中曽根康弘氏に見出され政権中枢に抜擢された。その後「総理大臣の可能性もある」と期待されたが加藤の乱で失脚する。その後はライバルだった小泉純一郎氏を幹事長として支えている。
山崎氏は防衛族でありかつ反安倍でも知られると時事通信が青字で補足している。
山崎氏は小泉内閣の同窓会に出席しメンバーの承認とを取ったうえで石破氏を召喚した。つまり反清和会というわけではない。また地元では古賀誠・山崎拓・麻生太郎各氏の仲が悪いことでも知られている。麻生氏に対抗するために二階派の武田良太氏を使い「福岡三国志」と呼ばれる混乱状態を作り出してきた。
その独特の立ち位置から山崎氏が「日本はアメリカと対等な同盟関係を作るべきだ」と考えていることがわかる。安倍晋三氏に反目しているところから考えると安倍氏を対米従属論者とみなしている可能性が高い。またアベノミクスによってもたらされた事実上の財政ファイナンスにも懐疑的なはずだ。つまり国民は応分の負担をして国を支えるべきと考えている。
現在の石破茂氏の発言から石破氏は防衛の増強を目指していることがわかる。だがアメリカが望んでいるのは対米協力強化であって独自の防衛力増強ではない。
敗戦間もない日本が取った戦略は「表向きの親米」路線だった。中曽根康弘氏は日本が自立しないうちはアメリカに従って防衛力を増強すべきと考えアメリカの指示に従って原子力発電所の導入に尽力している。だがもともとは海軍でアメリカと戦い敗戦を経験した経験を持っている。
いずれにせよ日本がアメリカと肩を並べるためには「ある程度アメリカの意向に沿って動き」なおかつ「自由決裁権を徐々に増やしてゆく」事が必要だ。敗戦を知らずとにかくアメリカの言う事を聞くことが多かった安倍晋三氏と仲が悪かったのも当然と言えるだろう。
いずれにせよ小泉同窓会に集まった面々はアベノミクスにも否定的だったことは間違いがない。ちなみにメンバーは次の通り。菅義偉氏と麻生太郎氏が入っていない。
- 小泉純一郎元首相、武部勤元自民党幹事長、亀井静香元政調会長、二階俊博元幹事長、山崎拓氏
結果的にここに入っていない菅義偉氏が独自に集会を開き小泉進次郎氏の擁立を決めてしまう。小泉内閣同窓会では「進次郎氏は総裁選には出ない」ということになっていたが、その前提は崩された。
山崎氏は記事の中でこう言っていることになっている。これは黒字部分なので山崎氏の発言。
過去一番短かった内閣は東久邇宮内閣の54日間。⽯橋湛⼭内閣は65⽇、宇野宗佑内閣は69⽇だった。もしかすると石破内閣は27日内閣になってしまう。それじゃあまりにも残念だ。もし、万一そんな事態になり、石破内閣続投のためには何が必要かと言われれば、政界再編以外にないと思っている。
では実際にはどうなっているのか。
まず石破内閣の支持率は28%であり多くの有権者が態度を保留している。このため政権には動揺が走っていると時事通信は書いている。バックアッププランとして自公がギリギリ過半数を取った場合の対応を考えなければならない。山崎派を引き継いだ「森山派」の領袖だった森山裕幹事長は「連立の枠組みの拡大を否定しない」と言及した。
「連立の誘いに乗りそうなのは維新」というイメージもあるが維新は連立入りを否定している。一方で対決姿勢を見せる立憲民主党の野田代表は何も発言していない。つまり「大義さえ整えば」立憲民主党の野田派がどうなるかはわからないということになる。
この逸話は「政治オタク」的には極めて興味深い。
まるで政治がチェスのように動いていることがわかるからだ。山崎拓氏が村上誠一郎氏(総務大臣)中谷元氏(防衛大臣)を集め、それに対抗する形で麻生太郎氏は河野太郎氏を捨てて高市早苗氏に乗り換えたと読むことができる。政局オタクにはたまらない記事だろう。
と同時にこの政界チェスのどこにも国民の姿がないことに唖然とさせられる。
山崎拓氏は小泉進次郎氏が任期を落としてゆくのは意外だったとか高市早苗氏が意外に伸びたなどと感想を述べている。あくまでも彼らの頭の中にあるのは国会議員の姿だけであって有権者どころか自民党の党員・党友たちが何を望んでいるのかもよくわかっていないようだ。
現在「どこにも入れたい政党がないがそれでも政治には参加しなければならない」と考える真面目で善良な有権者たちが真剣に投票先を悩んでいるのではないかと思う。
だが、仮に「選挙が終わったあとで勝手に政党が組み変わってしまう」とこの善良な有権者たちはおそらく「考える時間を返せ!」と憤り「政治に参加するのはムダだ、選挙など茶番だ」と考えて最初から投票しなかった人たちが正しかったことになってしまう。
部外者が増えれば増えるほど山崎氏が望んでいる「対等な日米関係」を作るのは難しくなるだろう。国民が防衛増税を受け入れることが前提になった戦略だからだ。