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習近平はなにが憎くて執拗に台湾を取り囲むのか

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中国が台湾を取り囲み軍事演習を行った。またロシアと協力した演習も実施している。「習近平はなぜ台湾を取り囲むのか」と問われれば多くの人は「中国には覇権主義的な野望があるからだ」と答えるのではないか。しかし考えを進めると台湾が習近平国家主席にとって実に不都合な存在だということがわかる。

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中国に深圳という地域がある。開放改革特区として成功した地域だ。中国人民はこれを中国の成功の象徴と考えるだろう。では習近平国家主席がこの先達(せんだつ)よりも偉大だと示すためにはどうすればいいか。深圳を超える地域を作ればいい。そこで作られたのが雄安新区だった。Bloombergは理想都市は空っぽという見出しでその失敗ぶりを伝えている。

資本主義にとって成功は結果である。だが中国ではそうならない。権力を維持するためには目に見える成功の証が必要である。つまり権力維持の手段なのだ。

資本主義・自由主義経済は「国家権力者から独立した存在」が繁栄を作るという組み立てになっている。そのために「見えない手」という仮想の概念が導入される。この見えない手には目もない。経済の過剰が起きやがて衰退することになっている。この衰退をどう乗り越えて次の成長を作るかが資本主義・自由主義経済圏の課題になっていて歴史的にさまざまな知見が蓄積されている。

その意味では中国の現在の経済不況も「資本主義・自由主義経済独特のサイクルによるものである」とみなすことができる。特に指導者とは関係がない。たまたまどの時代に居合わせたかが重要なのだ。

だが中国共産党はそう考えない。不動産バブルが崩壊すると中国は国家資本を導入して経済のテコ入れを行おうとしている。中国が財政支援をすると実際に株価が上昇したそうだ。また景気を刺激するために6兆元の債券発行も計画されている。統治を正当化するためには成功し続けていることが必要なのである。

一方、台湾(中華民国)は中国共産党支配から逃れるためには経済を発展させ続けなければならないという独自の事情を抱えている。2023年に公開されたアエラドットの記事は1人あたりのGDPが日本と並ぶか追い越すくらいのところにまで来たと書いている。習近平氏の理屈によると「頼清徳のほうが自分より偉大」ということになる。

10月に公表されたIMF(国際通貨基金)のデータによると、2022年には、台湾の一人当たりGDPは4万4821ドル(世界第24位)となり、日本の4万2347ドル(27位)を超えた。

日本のGDPは世界13位から27位に転落、「先進国のグループから転落しかねない」

現在の習近平執行部は過去の成功と対岸の反映を目の当たりにしつつこれを本土で実現できていない。日本人男児が殺傷された事件は「日本人憎悪なのではないか」と言われたが、実は中国ではこのところ治安が悪化しているのだというな話も囁かれるようになった。一部の金持ちが海外に逃避する一方で繁栄から取り残された人たちは不満をためている。

このため、日本テレビは今回の中国の軍事行動の狙いについて「経済停滞を背景とした共産党指導部の国内向けのメッセージだ」と解説している。

これだけを見ると「反映する台湾と衰退する中国」という図式を作りたくなってしまう。もちろんそれはそれで構わないのだが話をもう一歩進めてみたい。

まず、中国が陥っている状況は「日本を後追いしている」と言われている。かつて「西洋に飲み込まれるかも知れない」「敗戦から立ち直らなければならない」という強い経済成長の動機を持っていた日本だが1990年代にプロペラのゴムが切れたように成長から取り残された。共産党指導部に頼り切りになり自由な経済を追求する動機を失った中国と何故か重なってしまう。

おそらく「日本と中国には似たような背景がある」などと指摘しても感情的に受け入れる人は多くないだろうが、現在の政治に対する期待を見ていると「国がなんとかして地方を援助してくれないか」という議論が目立つ。

中東のアラブ人国家に囲まれているイスラエルも「少ない人口で国家を繁栄させるためには一生懸命に働くしかない」という動機を持っていた。経済成長の動機という意味では台湾とイスラエルは似ている。

台湾は既存政党に対する不信が高まっていて若者の間に第三党に期待する声があった。いわゆる現状打破・改革派として誕生した民衆党だったがトップの柯文哲主席が汚職容疑で逮捕されてしまった。政治的迫害だという抗議運動はそれほど広がっておらず支持者の間には落胆が広がっているそうだ。

ネタニヤフ首相もアラブ世界と対峙する勇敢なリーダーである点が高評価されていたわけだが贈収賄で裁判を抱えており何回か政治的な危機を迎えている。ネタニヤフ首相は現在「反国連キャンペーン」を行い暴走している。

このように資本主義・自由主義経済・民主主義の組み合わせも万能というわけではなくかなり危ないバランスの上になりたっていることがわかる。いずれにせよ「中国は独裁国家であり何をしでかすかわからない」は単なる思考停止に過ぎずなんの知見も生み出さない。

石破総理は「日本は専制主義国家に囲まれている」との発言を繰り返し、国際的な秩序の変化に対する知見を有していない。

首相はオブザーバー参加について「公明党の提案もある。等閑視するつもりはない」と強調。ただ、「日本の周りは核保有国、専制独裁国家だらけだ。米国の核抑止に頼りながら、片方で禁止しますというのをどう両立させるかだ」と述べ、議論を整理する必要があるとの認識を示した。

石破首相、オブザーバー参加「真剣に検討」 核禁条約、公明・野党は決断要求【24衆院選】

非常に勉強熱心な読書家として知られているそうだがやはり独学による偏りがあるのだろう。

今回も「何があっても対応できる国づくりを目指す」としているが、おそらく「何があるのか」と聞かれても仮定の質問には答えられないとなるだけなのではないだろうか。これは高市氏にもいえることだが「国家観を持った政治家」というフレーズも意外と思考停止ワードなのだろうという気がする。何か考えがあれば彼のプランを売り込むチャンスになるはずだが結果的に「注視する=何もできない」と言い続けている。

石破茂首相は14日、中国軍による台湾包囲の軍事演習に関し「台湾海峡や周辺の平和と安全は、地域にとって極めて重要な問題だ。わが国はこの状況を注視する」と述べた。推移を注意深く見守り、どのような事態にも対応できるよう態勢を整えると強調した。自民党本部で記者団の質問に答えた。

首相、台湾巡る状況注視 「対応できる態勢整備」

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