石破総裁の誕生に大きく「貢献」した人がいる。それが麻生太郎氏だ。麻生派は完全に終わったと言って良いかもしれないし「脱派閥化」が一層進んだと言えるかもしれない。ところが石破総裁誕生に貢献したのもまた派閥だった。
麻生太郎氏は河野太郎氏を支援すると決めた。最後まで河野派の集会に加わったが一部には高市早苗氏を支持するようにと言い渡していたようだ。勝ち馬の高市氏に乗ろうとしたのだろう。結果的に河野太郎氏に投票した国会議員は22名しかいなかった。河野太郎氏は麻生氏の高市支援を「飛ばし記事だ」と憤慨していたそうだが本人1票、支援者20票なので1名しか上積みできなかったことになる。離反があった可能性もあり河野氏が麻生氏から見放されたことは明白である。今後麻生氏と河野氏の中はますます険悪になるだろう。
それでも仮に高市早苗氏が勝てば麻生氏の戦略は「結果的に正解だった」ことになる。ところが鈴木財務大臣らは石破氏時に流れたようだ。TBSのニュース番組で星浩さんがそう主張している。
事前の報道から「麻生派の結束は万全であり高市早苗氏が財務省主導の麻生太郎氏に手足を縛られることになるだろう」と予想してた。だが、この予想が外れた。仮に麻生派が結束して動いたうえで高市総理が誕生していれば財務大臣ポストなどで麻生派を優遇していた可能性がある。だが、鈴木財務大臣は高市早苗氏はコントロールできないと考えたのだろう。
麻生太郎氏は政局を優先し河野太郎氏を切り捨て高市氏時に動いた。しかし鈴木財務大臣などの一派を抑えることができず石破総裁が誕生してしまったことになる。結局麻生氏が派閥を束ねることができなかったがゆえに石破総裁誕生につながっているのだ。
田崎史郎氏は早速「麻生派存続の危機」と主張している。麻生太郎氏の戦略は最後に勝ち馬に乗り恩を売り代わりにポストを要求するというものである。だが今回は味方を裏切った上に読みを外してしまい自ら派閥解消の危機を招いてしまったといえる。
石破茂新総裁は「派閥はもうなくなった」と主張している。だが朝日新聞と毎日新聞はそうは考えていないようだ。朝日新聞の記事のタイトルは「結局岸田だ」である。また、毎日新聞は「「石破総裁誕生に一役買った」林氏陣営 4位以降の候補者たちは」という記事を出している。
結果的に麻生太郎氏に振り回されていた岸田総理が総理大臣ポストを捨てることで麻生氏の影響力を排除したことになる。
岸田総理は「何と言っても民意が重要だから」と言っていたと伝わる。これに従えば高市氏を支援しなければならない。だが宏池会・岸田派は土壇場で石破氏を支援した。石破茂氏は最後の演説でも新しい資本主義の継続を訴えており事後の会見でも新しい資本主義を加速させると言っている。これは一定程度「経済では岸田体制の枠組みを維持しますよ」ということになりそれはすなわち人事で優遇するということだ。
つまり「派閥はなくなっていない」ということになるだろう。あとは小泉進次郎氏をはじめとした菅義偉陣営と二階派の処遇が注目ポイントである。
形式的な派閥はなくなったが非公式の人間のつながりは残った。今後の自民党はかなり面倒なことになりそうだ。これまで総理大臣が思い切ったことをやりたい場合には、派閥の代表者に取りまとめを依頼してきた。ところがこの代表者の姿がわからなくなっている。石破総裁自信の党内基盤が弱いため、自分のペットプロジェクトである安全保障のための負担増に賛同を得るのはかなり難しくなりそうだ。
一方で、誰かが「石破氏が気に入らない」と考えたときにも面倒が起きる。これまでは派閥の重鎮が集まって「あいつが気に入らないからおろしてしまおう」と合議していた。Quoraでは、三木おろしと同じことが起きるのではないかと指摘する人がいた。
日経新聞に椎名裁定から三木おろしに至る経緯が書かれていたので読んでみた。
田中角栄氏の金権政治批判を払拭するために椎名悦三郎氏の椎名裁定で選ばれたのが三木総理大臣だった。しかし三木氏は世論の期待に応えようと党内改革を始めてしまう。確かに「政治とカネの問題」の現代と背景が似ている。
ところがその後に大きな違いがある。椎名氏のもとには各派閥からクレームが寄せられるようになる。椎名氏は次第に三木氏を推挙したのは間違いだったと考えるようになり派閥単位でまとまって「三木さんをおろす」動きが始まった。このゴタゴタで「自民党は反省していない」ということになり選挙で負けたことで三木総理は退陣した。
今回も同じ様な動きが起きる可能性はあるが話をまとめる人がいない。党内に不満を持った人が増えてもまとまった動きにはならず不満がくすぶるだけということになるかもしれない。
いずれにせよ麻生氏の凋落に象徴される派閥の変質は始まったばかりであり、最終的にどの様な形に落ち着くかは今はわからないという結論が得られる。負けた人ははっきりしているが「誰が勝ったか」がよくわからないのだ。
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