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「反日感情」渦巻く中国 日本は今後どう付き合ってゆくべきか

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深圳で10歳の男の子が殺害された。この問題をきっかけに「反日感情」渦巻く中国と我々はどう付き合ってゆくべきかを考える。

中国で日本人学校に通う児童をターゲットにした死亡事件が起きた。日本政府は原因究明を求めているが中国側は「個別の例外的なケースであり中国は外国人にとって安全な国である」と言い張っている。この状況はおそらく今後変わらないだろう。

中国と関わる人はこれを前提に付き合い方を考える必要がある。

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第一に「この問題は死亡事故なのか殺人事件なのか」という問題がある。中にはマスコミが問題を矮小化しようとしていると憤る人もいる。

被害者に焦点を当てると死亡事故になり(被害者が亡くなっているから)加害者に焦点を当てると殺人事件になる。言葉遊びのようだが「裁判」になると殺人事件の裁判などと表現される事が多い。

つまり今後「加害者の裁判」が報道されなければこの事故は「死亡事故」としてしか扱われない。裁判報道を通じて社会の動揺を少しずつ均してゆくということが中国相手では難しい。

日本政府は「原因究明と再発防止策」を求めている。ところがここに無自覚の「お上(かみ)」意識がある。新幹線の連結器が外れた問題でも国土交通省は同じように「原因究明と再発防止策」を求めている。細々としたことは「お上」の預かり知らぬ問題である。下々のものは「色々織り込んだ」上で「お上」が説明できるような体裁を整えてこいというのが日本政府のいつものやり方だ。

当然これは中国当局には通じない。考えてみればわかることだが敢えて整理してみよう。

中国当局は地方政府を見ている。地方政府は中央政府を見ている。下々のものがお上に異議申し立てなどできない。そして日本政府は中国の警備当局にとって「お上」ではないので日本政府に対して忖度は必要ない。

中国の「上下関係」は日本よりも過酷だ。かつて外務大臣だった人が出版社に左遷させられたが、はっきりと「左遷だ」と説明されている。上にさからったら最後一生恥辱を背負って生きてゆくのが中国だ。例外はない。

同じことは北朝鮮でも起きている。やはりピラミッド型の国家である。拉致被害の問題は解決したということになるとそれに合わせて体裁が整えられた。拉致被害者家族も日本人は今でも納得していないが、日本政府は「問題を早期解決します」と決意を新たにするばかりで何もしていない。

外国人から中国を解放したことが中国共産党の統治の正統性の基礎になっている。さらに経済が困窮し統治の正統性に疑義が生じると源流に遡って思想強化が行われる。つまり「悪の日本」は中国政府の統治の正統性のために利用されてきた歴史がある。これを我々は「反日教育」と呼んでいる。これを中国の下部組織から変えることはできないし中国共産党から切り離すこともできない。

中国当局は(おそらく中央政府ではないだろう)次のような最終回答を書いている。

  • 前科のある危ないヤツの単独事故だった。
  • この人物の例外的な行動で社会全体の素養を代表するものではない

更に読売新聞によるとSNSでの書き込みが削除されているという。仮にこれが「反日感情」によるものではなかったとすると「子どもを無差別に狙った」ことになってしまう。中国の経済が悪化していて民衆に不満が溜まっていると言うことになるのだ。中国政府はこれも許容できない。

  • 生活の不安の矛先が日本に向かう
  • 生活の不安の矛先が中国の中央政府と地方政府に向かう

どちらも中国政府にとっては都合が悪い。すると彼らは「だったらなかったことにしてしまえばいい」と考えてしまうわけである。

故に彼らに再発防止策はないし日本人が期待する回答も出てこないだろう。

仮に日本人が「徹底的な反日教育の是正」を求めるならば岸田総理や新しく総理大臣になる人が「習近平国家主席(つまりトップ)」に対して「中国市場からの撤退」を突きつける必要がある。

はたして自民党にそこまでの分析力があり、新総裁にそこまでの政治的覚悟があるか。

総裁選の候補者にぶつけてもらっても構わないとは思うが、政治とカネの問題も統一教会の問題にも明確な回答はない。おそらく質問をぶつけるだけムダだろう。日本の政治家にそんな胆力はない。

さらに背景には困窮する中国問題も根深い。報道を見る限り、日本人関係者は口々に「深圳ではこんな問題は起きなかった」と言っているようだ。深圳は中国の中でも特に経済的に恵まれた土地だった。しかし、中国経済が悪化するに従い社会に不満を持つ人は増えているようだ。政府に対して異議申し立てをすることが禁じられている社会で攻撃の矛先が弱いものに向かうのは当たり前だ。

アメリカでも人種間対立からアジア系がターゲットになった時期があった。新型コロナは中国由来だという風説が広まり「中国系に見える」高齢者や女性が狙われたのだが、アメリカ人の中には中国人と日本人の区別がつかない人もいる。ただ「コロナ」は単なる言い訳に過ぎない。生活困窮の不満をぶつけたい人がコロナを利用するのだ。

このときもやはり「気を付けて過ごすしかない」ということになっていた。

アメリカ合衆国でこうした問題が起きると裁判が行なわれその報道を通じて詳細が我々にも伝わってくる。しかし中国では公正な裁判は期待できない。政府に働きかけるなら思い切った提案をトップに直接ぶつけるしかないが今の自民党の政治家たちにそこまでの胆力はない。経済的な状況も変わらない。

今後もしばらくはこのような事故(人によっては「事件と呼ぶべきだ」と考えるだろうが)が起こり得ることを前提に中国市場との付き合い方を考える必要がある。

特に企業は過度なリスクを従業員と家族に負わせるべきではない。

なお、今回の事件については日本人の対中国感情が悪化することを恐れている人が多いとも感じた。日中関係はその時の政治状況に翻弄されてきた。そのたびに在中日本人は「中国って危ないところなんでしょう?」とか「何もわざわざ好き好んで危険なところに家族を連れてゆくこともないだろう」等と言われてきたのだろう。「反日感情」と聞くと本能的な嫌悪感を感じるようだ。

ここが「あこがれの国」アメリカを選んだ人と中国を選んだ人の大きな違いである。やはり中国は未開な専制主義国と言うイメージがあり中国を選んだ人たちは世間から「説明責任」を求められてきた。

上川陽子外務大臣は副大臣を派遣し対策を検討するようだ。だがその内容を見るとあくまでも中国政府に対して「働きかけ」を行うにとどまるようである。日本政府はどこまでも受け身だ。

上川氏は、中国側から事件について「個別の事案だ」との説明しかないとし、「事実関係について一日も早く説明することと、子供たちの安全確保の徹底を強く求める」と訴えた。

深圳の男児刺殺事件受け、現地に外務副大臣を派遣へ…上川外相「できることは全てやっていく」(読売新聞)

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