【修正】ステロイド版のマーチン・ルーサー・キングと言う発言の解釈に誤解があったようだ。正しくはトランプ氏の発言だった。このため記述を訂正した。
誰でもSNSでいきがった投稿をすることがあるだろう。ノースカロライナ州の共和党系知事候補の過去の投稿が発掘されて社会問題になっている。曰く「俺は黒人のナチだ」だそうだ。呆れて物が言えない。
しかし騒ぎはこれで終わりそうにない。ハリス氏はこれを「男性と女性の対立」に昇華させようとしている。大統領選挙まで残り45日程度だそうだ。ますます過激化する終盤の大統領選挙を象徴する出来事となるかもしれない。
トランプ氏からもエンドースされているマーク・ロビンソン副知事の過去の投稿がポルノサイトから発掘された。CNNの報道を見るとポルノサイトの投稿はハンドルネームで行なわれていたが、顔写真が掲載されていてなおかつ別のSNSのハンドルネームと合致していたそうだ。
- SNSの利用は慎重に
と言う気がする。
確かにその発言内容はかなりひどい。「奴隷制も悪くない」とか「俺は黒いナチだ」などの問題発言のオンパレードだ。
当然、民主党は「こんな人は知事にふさわしくない」とするネガティブキャンペーンに利用することになる。
トランプ氏はこのロビンソン氏を「マーチン・ルーサー・キングのステロイド版」と表現していた。日本ではなかなか考えにくい表現だが「より強力に黒人解放を主導する」という意味なのだろう。だが実際は奴隷制を肯定していたことになり「無責任な発言」という印象を受ける。
ここまでだと「アメリカの政治家の質も落ちたものだ」で終わりになる。だがそれだけでは済みそうにない。
ハリス陣営はこれを中絶禁止問題と結びつけようとしているとCNNが指摘している。
中絶が厳しく制限されているジョージア州で二人の女性(アンバー・サーマンさんとキャンディ・ミラーさん)が亡くなった。ジョージア州で妊婦を治療する過程で胎児を殺してしまうと殺人罪に問われる可能性があり医者が診療に消極的になっている。これが女性の命を危険に晒す可能性が指摘されてきた。ついにその実証例が出てしまったのだ。
ハフィントンポストにアンバー・サーマンさんのケースが取り上げられていた。
解雇規制がゆるく雇用が安定しないアメリカでは、生活の安定を求める労働者は自費で学校に通いスキルを身につける必要がある。日本では政府がリカレント教育の充実を謳っているがアメリカではお金をためて学校に通い自力でスキルを身につける必要があるのである。
アンバー・サーマンさんはシングルペアレントで看護学校に通う計画を立てていた。生活を向上させるためにスキルを身に着けようとしたのだろう。常識的に考えると看護学校に通うためにはお金もかかる。なんとかして工面したのではないかと思う。
ところがそこで妊娠が発覚した。「いま子どもは産めない」のだから中絶薬を飲んで処置しようとしたのだが合併症を引き起こしてしまう。そこで病院に駆け込んだがなかなか治療してもらえない。そのうちに亡くなってしまったのだ。
いろいろなことがわかる。
- アメリカ人は女性も男性も自己責任でお金をためてスキルアップのために学校に通う必要がある。
- 望まない妊娠をしたとしても男性が生活を引き受けてくれるとは限らず、女性に自己責任で産むか産まないかを決める。そして中絶は母体へのリスクを伴う。100%安全とは言えないのだ。
- さらに近年では女性は家に留まるべきだという「キリスト教的な」価値観が強くなっている。これが女性に取って厳しい法制度になる。
最高裁判所の判事にはトランプ氏が任命した人も含めてキリスト教の倫理観を背景にした保守系が多い。だが、トランプ氏は「州の決定であって自分には関係がない」と言い張っている。このため、女性たちは状況が不当であると証明しなければならない。
そこでハリス氏はこの問題を「不適切発言」のマーク・ロビンソン氏やトランプ氏と接続し「こんな無責任な男性が女性の生活をめちゃくちゃにしようとしている」と言うキャンペーンに仕立てた。
まだ放送はされていないようだが、ローカルニュース、「ジェパディ」、「ホイール・オブ・フォーチュン」の間にCMとして流すのだという。ジェパディやホイール・オブ・フォーチュンは政治色がない他愛もないクイズ番組である。アメリカでは長寿の番組で難しいことを考えずに気軽に楽しめる番組として知られている。
冷静に考えると、マーク・ロビンソン氏が知事にふさわしい人かどうかは単独で議論されるべきだろう。複数の問題を接続し男性対女性の問題に仕立てれば感情的な対立ばかりが煽られ解決する問題も解決しなくなってしまう。攻撃された男性側が感情的な反発を覚えることは必至だ。
だがどちらも相手陣営に対する敵愾心を利用して自分たちの陣営を勢いづかせたい。トランプ陣営はトランプ陣営で「イスラエルが消えたら民主党に投票したユダヤ系のせいだ」などと言い張っている。
この様な極端な発言がお茶の間の「ほとんど無害」なクイズ番組の合間に放送されるのだと考えるとあまり政治に興味がないアメリカの有権者たちはさぞかししんどいだろうなあと感じる。
アメリカ合衆国ではこの状態が少なくとも11月初旬まで続く。