自民党総裁選が中盤に差し掛かり高市早苗氏に注目が集まっている。安倍総理の上げ潮路線を継承する唯一の存在だっただけに現在の自民党中枢から見れば疎ましい存在だ。
注目は「烏合の衆」であるネット右翼が高市氏を支え続けることできるかだろう。既得権側はネット右翼がそれぞれ孤立したままで黙って自民党を支え続け黙って税金を払ってくれることを期待している。
ネット右翼が自分たちが体制側におり社会とつながっていると感じるためには、この不当なこの取引を受け入れる必要がある。だが今回の「高市潰し」で当事者たちがからくりに気づきつつあるのではないかと思う。
高市早苗陣営には2つの動きがあった。
まず、あからさまな高市潰しに対して反論した。自民党執行部サイドは騒ぎをおそれ事態の沈静化を図っている。岸田総理の突発性の症状がまた出てしまったのである。「行動はしないが姿勢は見せたかった」と言い訳にすらならない弁明をしている。
自民重鎮は追加対応に関して「新たな処分を求めるわけではない。何らかの対応をしている姿を党内に見せなければいけない」と指摘。「高市氏が勝利した場合、(郵送問題を)言われ続けるのは党にとって良くない」とも語った。
自民総裁選 高市早苗氏の秘書が党執行部批判、政策文書郵送の追加対応巡り「公平性欠く」(産経新聞)
また岸田総理のXの投稿には「どうすんのこれ」との投稿が相次いだ。岸田総理が高市早苗氏を潰そうとしているという「高市潰し」という用語がトレンド入りし収まる気配を見せていない。退任後も衰えぬ「炎上する力」を見せつけるところに岸田総理の隠れた才能を感じる。
さらに高市氏の「推薦人を個別に知らない」という発言も波紋を広げている。リーダーとしてあまりにも無責任だ。杉田水脈氏らが念頭にあるものと見られる。
これまでの経緯をおさらいしてみよう。
まず小林鷹之氏が「安倍派の取りまとめ役」として期待された。若くて背が高く、二階派・岸田総理の同門の開成高校出身・財務官僚出身である。「財務省よりの自民党エスタブリッシュメント」が管理しやすくお手軽に刷新感が得られるプロフィールである。
実によく考えられた人選なのだ。
小林氏は表立って行動できない福田達夫氏のプロキシーになっている。しかし、推薦人20名からは裏金議員が除外されている。それだけ人選に余裕があったのだろう。
一方で高市早苗陣営は推薦人乗引き剥がしを受けていたため人選に余裕がなかった。杉田氏らに「手を出した」のはそのためだろう。
当時との決定的な違いは、保守派の中心人物だった安倍氏の不在だ。安倍氏は前回、安倍派を中心に高市氏への支援を働き掛けたが、今回は同派中堅らが小林鷹之前経済安保担当相(49)の陣営に結集。高市氏は告示日近くまで出馬のめどが立たず、「推薦人の引きはがしに遭っている」と弱音を漏らす場面もあった。
高市氏、「保守」主張を抑制 支持拡大、安倍氏の不在大きく―自民総裁選(時事通信)
財務省よりと考えられる自民党エスタブリッシュメントの思惑が透けて見える。彼らは安倍総理の人気は継承したい。しかし安倍総理が掲げていた上げ潮路線の継承は困る。
それは彼らが掲げる財政健全路線に反するからである。安倍氏支持者たちは黙って自民党の路線を支えてくれれば良いのだ。
憲法改正は構わない。自衛隊を憲法に書き加えたところで自衛隊の矛盾が解決するわけではない。本気で矛盾を解消しようとすると石破氏の考える路線を追求する必要があるがそれでは党内が混乱し公明党との関係にも影響が出る。
憲法改正はお金がかからない保守の引き止め策である。つまり、自民党は「お金がかからない政策で保守を引き止めて欲しいが、増税と緊縮は受け入れて欲しい」と考えているのである。
高市早苗氏は「安倍総理の掲げていた積極財政路線」を主張している。これがよく分かるのが過去の造反である。財源ありきの防衛増税に反対し閣外不一致と囁かれた。そこでむしろ「私は覚悟を持っています(更迭してもらっても構わないんですよ)」と開き直ってみせる。
私の背景には大勢の安倍総理支持者がいます、私を切れないですよね、と公開で岸田総理に迫ったのだ。
朝日新聞は数ヶ月前に仕入れた写真をタイミングよく公開した。朝日新聞はあくまでも「丁寧な裏取りの結果」としているが政治戦の可能性は否定できない。ジャーナリズムとしては疑問が残る対応だが私企業としては当然の行為と言えるかもしれない。誰でも自分が持っている「商品価値」を最大化したいと考えるはずだ。部数が伸び悩む新聞が生き残るためには思い切った報道(タマ)が必要である。
現在の自民党は安倍総理が連れてきた人たちの離反を防ぎたい。だからこの問題については触れたくない。おそらく今でも「あの界隈の人達」が選挙を支えていると知っているのだろう。総理になって議会を解散した結果選挙に負けてしまうと「総裁だが総理ではない」状態になってしまう。だからこそ問題を否定す続ける。そしてこれが朝日新聞の写真の商品価値を高める。
各紙とも「この問題の追加取材をしなければならない」と張り切っている。
いわゆる「ネット右翼」と言われる人はどんな人達だろうか。彼らは社会とのつながりがない孤立した存在だ。だが「中国の脅威と戦い日本の尊厳を守る自民党」を支援することで社会とかりそめのつながりを維持していると考えたがっている。
このまま高市早苗氏が失速してしまうと「所詮彼らの声など無視された」ということになってしまう。連帯して高市氏を支えたいところだがおそらくそのようなまとまった運動体は作れないだろう。ネトウヨ同士の横の連携などない。
ではネトウヨはこのまま烏合の衆で終わるのか。
実はアメリカにティーパーティ運動という先行事例がある。
ティーパーティ運動は企業支援・エスタブリッシュ志向が強かった共和党の内部から出てきた草の根運動だった。だがオバマ民主党政権が中流階級の生活再建に冷淡だったこともあり急速に盛り上がりトランプ氏を核にした「Make America Great Again(MAGA共和党)」へと進化してゆく。そしてMAGA運動に支配されると数で劣るエスタブリッシュメントたちは共和党をコントロールできなくなってしまった。いわゆる「ネオコン」と呼ばれた勢力はハリス陣営支持に転じている。今度は民主党を中から変えようとしているのかもしれない。
今回の高市潰しで「高市氏は自民党を離れるべき」という声がある。だが実際には自民党に残って草の根的な運動を支えたほうがより厄介な存在となる。自民党の「質」が内部から変質してしまうからである。