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そもそも日本人は成長したいのか 総裁選・代表選の経済成長戦略(1/3)

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成長戦略と聞くと「冗談じゃない、これ以上どう頑張れというのだ」と反発する人も多いのではないか。

今日は自民党総裁選と立憲民主党の代表選について経済成長戦略に注目した。「簡単なまとめで終わるだろう」と思っていたのだが、実は各候補の経済・成長戦略をフォーマット化してまとめた報道がない。各候補者の主張を抜書きしたのだが「特に批評できる」ような内容もなかった。

そこで「そもそも日本人は経済成長などしたいのか?」という疑問にぶち当たった。今頑張って社会で活躍している人も再挑戦を目指している人も「これ以上どう頑張ればいいのか?」と思っているのではないかと思うのだ。

なぜこうなるのかを考えた。現在の医療・福祉を増税なしで維持するためには高度経済成長期のような成長が必要だという着想になっている。このため「経済成長を起こす動機」に着目した提案がないのである。

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そもそも「我々は将来の医療・福祉」を支えるために経済成長を目指すのか。そうではないだろう。

自分の暮らしが良くなるから頑張る

のではないか。

他人のためと言ってもせいぜい「子供が不自由しないように」くらいではないだろうか。これが正常な経済提案だ。そもそも目的設定が政治家と国民の間でずれていることがわかる。

ではなぜそのようなことになってしまったのか。歴史を振り返ってみよう。

第二次世界大戦後の日本はとりあえず戦争で破壊された暮らしを立て直すことからはじまった。つまり当座の必要を充足させるための経済発展だった。これは「もはや戦後ではない」で目的達成になった。1956年の中野好夫と言う人の随筆がオリジナルだそうだ。

これが一段落すると次の目標が必要になる。そこで池田勇人は「所得倍増」を訴えた。とりあえず我々の生活は良くなったが「もっと頑張ればもっといい暮らしが実現できますよ」と訴えたということになる。

このための仕掛けとして政府はおもに3つの仕事をした。

企業は労働者に賃金を払い、労働者がそれを貯金する。それを国が預かりインフラ整備を行う。そのインフラを使って企業が儲かる工場を作り、海外で儲ける。つまり「構造的な好循環」を作った。

さらに石炭産業のような儲からない産業を停止した。炭鉱労働者に再教育を行い急成長する製造業に人を回した。

最後にオリンピックや万博の様な行事を誘致し国民に楽しみを与えた。また、住宅を整備し「頑張って働けばもっといい暮らしができる」を実現した。住宅がある程度充足すると「リゾート施設」を作り余暇の充実させる。余暇を充実させることで新しい需要を生み出し地方に利益を回すためだ。

日本の経済成長は、極東に資本主義・自由主義経済のショーケースを作るアメリカの戦略に沿っている。自民党はこのプランに人々を誘導するために「我々提案に乗るともっといい暮らしができますよ」と提示してきた。

日本人は「国を豊かにするために働いてきた」わけではない。「自分たちが楽しい生活ができる」から経済成長プランに乗ったのだ。だが今の自民党のプランは「今の医療社会福祉制度を支えるためには経済成長が必要だ」という組み立てになっている。

自民党の総裁候補の経済成長プランは別のエントリーで個別に紹介するが経済成長が自己目的化しており「それに乗るとどんないいことがあるのか?」については全く触れられていない。つまり動機形成に欠陥がある。ただ「日本は経済成長しなければならない」という思い込みがあるため誰も動機形成に欠陥があるとは指摘しない。

さらに地方票を獲得するために「地方分散」を入れざるを得ないという事情もある。実はサービス産業では「都市型の集積」が高い経済効率化をもたらすという研究結果がある。

第2回「なぜ大都市では賃金が高いのか」(RIETI)

次世代型の産業を育成するためには集積度合いを上げてゆく必要がある。労働者が高い賃金を求めるならば地方を捨てて都市に出たほうが効率的ということになる。地方に工場を誘致すればよかったのは「重工業(例えば鉄鋼)」や自動車産業・家電などの産業の集積度合いがその程度だからである。

だが、自民党はこの戦略が採用できない。自民党はアメリカの日本統治のために作られた政党だ。だから彼らは地方にいる農家や中小企業などが左派に流れないように囲い込む必要があった。現在の自民党は地方の小さな組織に支えれているため党是で「地方脱却」と「都市への集積」を謳えない。加えて立憲民主党はそもそも存在意義を巡って揺れている。日本では都市型経済を牽引するような勢力が現れなかったし、高度人材は旧来型の政治に魅力を感じていない。

このため自民党の総裁選挙も立憲民主党の代表選挙も2つの要素を決定的に欠いているう。

  • 立憲民主党にはそもそも経済成長プランがない。
  • 自民党の経済成長プランに乗れば我々の暮らしがラクに楽しくなるだろうか?という問いに答えがない。
  • 現在、唯一うまく言っている都市の産業クラスターを地方に分散させる合理的動機もないが、都市型の政党がないためこうした提案ができない。

今回の提案で最もひどいのが河野太郎氏だ。解雇規制をなくしゾンビ企業を撤退させれば尻に火がついた国民は死ぬ気で頑張るだろうと考えているようだ。伝統的に自民党が自由主義・資本主義を国民に売り込むためにありとあらゆる努力をしてきたということをすっかり忘れているのだろう。

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