河野太郎自民党総裁候補の発言が炎上している。大統領選挙ではなく自民党の私的な選挙の公約がここまで燃えるのは珍しく「さすが河野太郎だ」と感心させられる。トップリーダーとして浮上するはずの作戦で叩かれるというのはもはや「自分で破滅したがっている」としか思えない。
炎上しているのは「すべての人に確定申告を」という提案だ。
第一に河野氏のアイディアが悪いとは思わない。アメリカではすでに行なわれている。納税者が「自分はいくら税金を支払っておりいくら還付があった」と知らしめる作用があり有権者意識を高めるという効用がある。また、すべての人が確定申告をするようになると当然すべての人が書類を書ける程度に簡単な税制にしなければならない。これが徒(いたずら)な制度の複雑化を防ぐ。さらに有権者を2年毎に惹きつける必要があり政権は「税金の割戻し」に力を入れるようになる。このため還付が起きる時期には消費が伸びる。また、事務の効率化は国民の関心事となる。REUTERSが「米IRS、納税者向けサービスで成果強調 予算増額を改めて要望」という記事を出している。日本の国税庁が「自発的にサービス向上に努めたので予算をください」という話など聞いたことがないが、アメリカではそれが起きている。
つまり、仮に確定申告をすべての人に行ってもらうためには次のような手順を踏まなければならない。
- まず、確定申告のメリットを国民に伝える。この目標を達成するためにはこの手段が必要だと言う説明になる。
- 次に、税制を見直し簡便化する。これは「阻害要因排除」の一環だ。
- さらに、税務署の手続きフローを見直す。おそらく書類の簡素化、税務署と地方自治体の情報インフラ整備、電子化などが必要だろう。阻害要因排除が目的となり書類の簡素化、情報インフラ、電子化などはその手段だ。
道具立ては意外と単純だ。目標、手段、阻害要因排除である。ところが河野太郎氏はそれをやらない。
- 政治家として埋没にしないように焦り、自己宣伝のためには高い目標設定が必要だろうと考える。つまり目標は自己宣伝だ。
- このため「確定申告の義務化」という本来は手段であるものが目的だと宣伝される。
- 突然目的を告げられた国民は混乱し「あれができない、これができない」といい出す。
- 収拾がつかなくなると職員を叱りつけ職員の士気を奪う。河野氏は自己宣伝という目的の阻害要因はのろまな部下だと考えており、阻害要因排除は部下を叱り飛ばすことだと思い込んでいる。
- 現場が混乱する。
今回は特に裏金問題が浮上した麻生派代表ということになっており「刷新感」を出すための選択肢が限られている。このため発信が過激になり却って反発されている。
河野氏自身は新自由主義的な政策(維新の政策に似ている)を打ち出すことで現役世代を惹きつけると言う戦略を取っているのだろうが、却って現役世代から「そんな事はできるはずがない」と反発されている。つまり、わざわざ総裁選挙に出馬して「政治家としての自殺」を図っているようにしか見えない。
だが「なぜ河野氏はいつも失敗するのか」の原因は割と単純なものだ。夏休みの自由研究を計画する小学生に先生が言って聞かせるような内容である。
- 目標をはっきりと定めて、夏休みのうちに終わらせられるようにカレンダーを見て計画を立てましょう。
自民党の総裁候補にまで昇りつめたのだから優秀な人なのだろうが、その行き詰まりの原因は意外と単純なところにあるように思える。
冒頭に書いたように確定申告が行き渡ると「いくら取られて、いくら戻ってくるか」が明確になるため納税者意識が強まる。日本では消費税のみが「税率と支出額がわかる税」になっており、税率を数パーセント変えると内閣が吹き飛ぶことがあるくらいだ。だから財務省は国民に納税者意識を持ってほしくない。
財務省代表候補の小林鷹之氏は「確定申告のような複雑な制度を国民に押し付けるな」と言っている。ただし改革派と言うイメージは崩したくないだろう。「段階的な改革」を提案している。永田町・霞が関用語ではこれは「延々と検討して結論は出さない」ということなんだろうが、この辺のメッセージングはこなれたものだなあと妙に関心させられる。財務官僚時代に相当鍛えられているのだろう。
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