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「誰も法の上に立てない」 アメリカ合衆国がマドゥロ大統領から飛行機を取り上げる

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CNNが「アメリカ合衆国がドミニカ共和国においてマドゥロ大統領の飛行機を接収した」という独占記事を出している。この記事の中で政府高官は「誰も法の上に立てない」と力強く宣言している。確かにその主張は美しいが「いや、待てよ」とも思う。

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マドゥロ大統領はアメリカの経済制裁をかいくぐってアメリカから飛行機を購入したようだ。大統領選挙でも不正が囁かれている。「敵は潰す」と言う戦略を持っており野党党首のマチャド氏は「出馬禁止」を言い渡されている。このため野党は政治的にはほとんど無名だった候補を立てた。「実績がなければいちゃもんも付けられないだろう」というわけだ、だがこの候補も「テロを企てた」と言いがかりを付けられ逮捕状が請求されている。野党候補としてマドゥロ氏に挑んだことが「実績になってしまった」のである。

アメリカ合衆国はそんなマドゥロ政権を承認していない。このためバイデン政権は「誰も法を超越することはできない」と主張しマドゥロ政権に圧力をかけ始めた。今回の接収もマドゥロ政権に対する強力なメッセージであると強調している。前代未聞だからこそ成果になるという政治的宣伝である。マドゥロ政権に向けたメッセージと言うよりバイデン大統領の国内向けのメッセージと言ってよいだろう。

米当局者の1人はCNNに「これは上層部にまで送るメッセージだ」と語った。「外国の国家元首の航空機を押収するのは刑事問題として前代未聞だ。我々は、誰も法を超越することはできず、米国の制裁を逃れることはできないという明確なメッセージを送っている」

米、ベネズエラ大統領の航空機をドミニカ共和国で押収 CNN EXCLUSIVE

アメリカ合衆国は「誰も法律には勝てない」と言っているがその法律は厳密に言えばアメリカの法律である。つまりアメリカの民意には外国の元首でも勝てないと言っている。アメリカの価値観は世界の価値観であると言いたいのだろうが厳密にはそうではない。これが第一の違和感だ。

次にこの「法の上に立てない」というセリフはトランプ氏の批判によく使われる。実際にはトランプ氏を支持する人も多い。共和党には「まともに法治主義を守っていたのでは文化破壊に勝てない」と焦りをつのらせている人が多い。つまり法律はアメリカの「民意」ではあるが「総意」ではない。

おそらくドミニカ共和国には話くらいは通しているのだろうが、アメリカ合衆国が主権国家に踏み込んで外国の航空機を接収できるのは強い経済力と軍事力が背景にあるからだ。第三の違和感は「これが通用しなくなっているのに、民主党政権はまだ強気を通そうとするのか」というものだ。

違和感の正体は「アメリカ国内でメッセージが正当化しにくくなっているからこそ、実力が行使できるところで成果を上げようとした」というところに起因するのだろう。

イスラエルでは6名の人質殺害をきっかけにしたデモとストが起きている。ネタニヤフ首相は国民に謝罪したがガザ地区に軍事力を展開し続けると言っている。アメリカはイスラエルをコントロールできていない。

アメリカの人質が意識されればされるほど「パレスチナではもっと大勢の人が殺されている」という事実が浮かび上がる。民

民主党は「人間中心」の価値観を全面に押し出すことが多いのだが、イスラエルの事情を見ると「人間中心といってもずいぶんとご都合主義なものだ」という民主党が本来持っていた偽善的な一面を浮かび上がる。最も堪えているのが民主党の支持者達である。親パレスチナ派の人たちはハリス氏への抗議行動を計画している。

イスラエルではパレスチナの200万人は飢え死にしても構わないとするスモトリッチ財務大臣が「戦争の継続のためには財政支出を削減する」と宣言している。ネタニヤフ政権は国民生活を犠牲にしてでも政権を存続させたいため、財務大臣の暴走が止められない。

軍事力と経済力で抑えることができる地域は支配できるバイデン政権だがイスラエルの情勢はコントロールもマネージもできない。このためネタニヤフ首相を激しく非難しつつも支援は止められず「今度こそ最後だ」とする(だがおそらく誰も期待はしていない)停戦案を提示している。

アメリカの有権者たちは「アメリカは今後もアメリカの価値観(民意)」を世界に守らせるための保安官であり続けるべきだと信じており、バイデン政権もこの期待に応えざるを得ない。だが、その期待に応えてみせたとしてもやはりコントロールできていない部分が隠蔽できるわけではない。バイデン大統領はもうすぐこの状態から抜け出すことができるが、ハリス氏と民主党の議員たちは今後もこの問題と向き合ってゆかなければならないだろう。

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