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離反阻止とPCデポ

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PCデポの炎上が止まらない。今度は従業員に課したノルマが流出した。中でも興味深かったのが離反阻止に関する一節だ。PCデポでは「会員様思いとどまり」という独特の用語を使っていたようだ。
この離反阻止はコールセンターではよく行われており、特段珍しいものではない。コールセンターでは、商品開発の一環として離反阻止スクリプトが作られる。銀行口座を解約したいとかクレジットカードを停止したいという申し出があったときに、お客に思いとどまってもらうための台本だ。
離反阻止スクリプトはある程度統計的に作られる。クレジットカードを解約したい人の多くは会員であるメリットを発見できなかった人だ。そこで会員特典を紹介したり、特別オファーを出したりして、引き止めを図るのである。これは、過去にそのような情報やオファーを提示して、引き止めに成功したという実績を標準化したものである。いくつか重要なポイントがあるが、オペレータは離反阻止に対して「オファーを付与する権限」というリソースが与えられているというのが重要な点である。
離反阻止の会話そのものも次のスクリプト作りの役に立つ。だから、コールセンターでは離反阻止が失敗したからといってペナルティを与えたりはしないだろう。中には解約担当のような人たちがいることもある。スクリプトを熟知したスペシャリストだ。多分、離反されたからといってペナルティを課されることはないのではないだろうか。
離反阻止のための会話情報は次のサービスを作る際の参考になる。「こういうサービスがあれば離反しなかった」という情報が取れるからだ。つまり「お客様思いとどまらせ」は学習の機会となるのだ。離反阻止は企業としては正当な活動であり、離反阻止自体に問題はない。だが、PCデポ問題が広く一般に知られるようになると、離反阻止=悪のようなイメージがつきかねない。
PCデポは学習の機会を放置するだけでなく、負のインセンティブを当てている。離反者が出ると売り上げ成績から数字が差し引かれるのだそうだ。これはインセンティブの使い方としてはまちがっている。顧客はサービスが対価に見合わないからという理由で離反するのだが、PCデポのオペレータにはそれを阻止するリソースがない。しかし、離反は成績(つまり生活)に打撃を与えるので、無理に引き止めざるをえなくなる。
さらに、離反させることが悪ということになるから、離反は隠蔽される。離反阻止は学習の機会なので、その通路が遮断されると、自分たちのサービスが受け入れられているかどうかがわからなくなってしまう。実際には離反の経験をシェアすることにインセンティブを使わなければならなかったのだ。
PCデポの資産はいうまでもなくアルバイトやパートの知識だ。ここが他のオペレーション・ドリブンな会社と違っている。例えばマクドナルドは本社が知識を持っていてアルバイトにマニュアルで伝えている。アルバイトの方がハンバーガーに対する知識を持っているとは思えないから学習障害が起こっても直ちにオペレーションが崩壊するということはない。
PCデポはもうダメだなと思うのだが、いくつか理由がある。学習の機会がないので、急速に衰退してゆくだろう。経営者は自分たちが何をしているかに気がついていない。顧客に知識を売っているはずの会社が知識を集積する戦略を持たないのは致命的だ。
さらにいったん入ったら抜けられないサービスを警戒する人は多いだろう。銀行口座を気軽に作れるのはいつでも解約ができる気軽さがあるからだ。あの会社と付き合うと骨までしゃぶられますよという会社に客がつくとは思えない。