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日本人は高くてもコメを食べ続けるだろうか? 令和のコメ騒動が向かう先

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テレビ朝日が「コメが足りているコメ屋と足りていないコメ屋の違い」の特集をしていた。ここから今回のコメ不足の構造がわかる。と同時に、今後コメの需要が低下し日本人のコメ離れが加速する未来も予想できる。ここで「政府になんとかして欲しい」とは思うのだが、おそらく政府は何もしないだろう。政府にはその意欲と意志がないからである。結果的に日本の米作農家は自由落下的に縮小するだろう。似たような事例はいくつもある。

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テレビ朝日が「コメ品薄の一方“大量入荷”も…在庫ある店&ない店で何が違う?」という特集を流していた。事前契約をしていたコメ屋にはコメが豊富に入ってくるのだそうだ。

日本農業新聞も同じような指摘をしているが扱い方に違いがある。

日本農業新聞を読んでいるのは農業従事者だ。コメの安売りを苦々しく感じていたのだろう。都度買いに頼って安くコメを買い叩いていた店が苦境に陥っていると言う書き方になっている。前回ご紹介した産経新聞は2023年末に「肥料代が上がっているのにコメの取引価格が低下た」と嘆く農家を紹介する記事を書いていた。

農業関係者はおそらく「年末には農家の苦境を無視していたのにコメが足りなくなったら大騒ぎするのか」と溜飲を下げているかもしれない。

では、農家の望み通りに米の価格は回復するだろうか。

今回のコメ不足の理由はおそらく小麦価格の値上がりによるコメ消費回帰なのではないかと思う。小麦(パンやパスタ)の価格が値上がりしたことで、生活防衛意識の高い階層の人達が自炊に流れた。これはあくまでも仮説の域を出ないが経済が成長しないいわゆる「デフレ」がインフレに転換したことを示唆する。

では、価格的理由でコメに流れた人たちは、今後高いカネを出してまで自炊を続けるだろうか?

確かに高齢者を中心に「食卓にはコメが必要」という人は一定数いるだろう。スーパーは今後事前契約の割合を増やしコメの総量を確保するかもしれない。だがそのコメは以前より割高になる。共同通信とテレビ東京が「新米の季節になってもコメの価格は高止まりするだろう」と予想しているのだからその傾向はますます顕著になるに違いない。

家電と個人向けパソコンで同じような傾向が見られた。消費者の節約傾向が高まると付加価値のついた高額製品は売れなくなる。また価格を重視して買い物をする人が増えると「パナソニックのお店」のようなサービス重視型の流通ルートは消えていった。

利益が確保できないと考えるメーカーは付加価値を付けた高額商品を売り続けたが性能の向上には限界があり結果的にサービスを競う必要が出てきた。権利者意識が高い中高年顧客はサポートコストを圧迫し利益率は販売後に削られてゆく。

結果的に、国内メーカーは家電と個人向けパソコンから撤退してしまった。これが「市場原理」だ。

これはコルナイが指摘したソ連の末期と同じ状況に似ている。ソフトな予算制約(国に保護されて倒産の危機がなかった)製造者がハードな予算制約状態(つまり資本主義のこと)に置かれて起きた現象とされている。

閉鎖経済のソ連では日用品の品不足が起き経済が不安定化した。しかし、日本はこのような状態にない。家電は代替が効かないため中国製などに置き換わっている。中古市場もかなり充実してきた。若い人たちはパソコンを買わなくなった。スマホが生活必需品になっているが中国製造のアメリカ製だったりする。つまり外国製品が需要を置き換えてしまった。

これをコメに置き換えるとどうなるだろうか。コメは政府に保護されているのでおそらくコメの価格は高止まりする。すると生活防衛意識の高い人達はコメを忘れるだろう。「パナソニックのお店」を「サービスの行き届いた米穀専門店」に置き換えると一定の需要は残るだろうが一斉に米穀専門店に回帰する未来は考えにくい。

そもそも「コムギが上がったからコメの比率を高めているだけ」だからコメの値段が上がれば当然コムギに戻るのだ、。結果的にコメの需要はこれまでのトレンド通りに減少することになる。

自民党はJAとの関係を重視しているのでJAに対する補助は続けるだろう。だが農業従事者一人ひとりにあまり関心はない。ブランド米を事前購入してくれる顧客を掴んだコメ農家は生き残るだろうがそうでないところは離農せざるを得ないということになる。縮小する経済のもとではすべての農家を幸せにすることはできない。

Quoraでもコメ不足について聞いたがやはり全国的にコメは足りなくなっているようだ。だが内容を見てみると「スーパーでコメを探した」という人が多い。つまり事前契約しているコメ専門店などをみているわけではなさそうだ。そして彼らがあえてコメ専門店でコメを買い求めることもなさそうである。コメの価格が2倍になったと言っている人もいた。今後はこれが「本来のあるべきコメの価格」になるかもしれない。

ここまで見てくるといくつかのことがわかる。日本人は誰かを批判するときに「リスク」を強く意識する。政府批判はリスクが大きいと考えて自己抑制が働いてしまう。このためQuoraのコメントを見ると「ある一定の箇所」で思考が停止し「諦め」の感情として知覚されるようだ。

  • だって、考えても仕方ない

として考えること自体をやめてしまうのだ。

だが冷静に構造を把握すると「おそらくこのままではコメ離れが加速するだろう」ということがわかり「政府がそれを受容するならばこのままでも構わない」ということになる。なるようになるという自由落下型の未来は「日本人のコメ離れ」だ。仮にコメ離れが日本の食料安全保障に悪い影響を与えると考えるならばなんとかしたほうが良い。またあえて言うならば何もしない政府に意味はない。国民経済から見れば単なる無駄な経費だろう。

現在の自民党政府には制度維持欲求はあっても統治意欲はないこともわかる。おそらくこれは岸田総理個人の問題ではない。

農水省はとにかく今のコメ管理制度を維持したいと考えておりコメの価格下落を阻止したいのだろう。このため、備蓄米の流出を拒み続けている。彼らの政策は基本的に余剰米を買い取って飼料に回すことでコメの価格低下を防ぐというものだ。

岸田総理が要請した「消費者の立場に立った」対策は「卸売に円滑な流通を文書で依頼する」というものだった。つまり「流通のせいだからそっちでなんとかしろ」と言っている。またNHKでは「各地で新米の流通が始まりました」というキャンペーン映像が流れ始めた。マスコミの報道がコメ不足を加速させているという気持ちもあるのではないかと思う。

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