イギリスでは7月末から各地で暴動が起きていた。ようやくスターマー政権が鎮圧に乗り出し沈静化の兆しがある。今回の暴動の特徴はネットの情報に踊らされたティーンが多かったことだった。イギリスでは12歳の参加者もいた。BBCが震源地をたどったところ北米大陸のあるネットニュースの存在が浮かび上がる。思想的な背景はなく単なるクリック単価稼ぎだったそうである。
イギリスのサウスポートという街で子どもたちが刺殺された。すぐさま「これは移民による憎悪犯罪である」という情報が飛び交い各地で暴動に発展した。刺殺した容疑者は17歳の少年であり本来なら名前は公表されない。だが虚偽情報の拡散を恐れた当局はアクセル・ムガンワ・ルダクバナという名前を公表した。アフリカ系の容姿と名前だがウェールズのカーディフ出身だったそうだ。
大人から子供まで扇動された人の年齢は様々だそうだが、中には12歳の参加者もいた。親たちは「やり直しの機会を与えて欲しい」と当局に懇願している。しかし、事態があまりにも急速に広がったためスターマー政権は「何が原因で暴動に至ったのかは問わない」が「とにかく暴力行為は認められない」との姿勢を明確にしている。
そもそもこの虚偽の情報はどこから出てきたのか。
BBCのVerifyチームはあるニュースサイトを特定した。運営しているのはカナダとアメリカに住んでいる人で思想的な背景はなく「クリック数稼ぎが目的だった」と言っている。イギリスには虚偽のニュースを取り締まる法律はなく、また法律があったとしてもイギリス国外のメディアは規制できない。さらになぜ多くの人たちが暴動に参加したのかについての分析も進んでいない。とにかく、今目の前にある問題の解決で手一杯なのだ。
今回狙われたのはテイラー・スウィフトさんをテーマにしたイベントだった。テイラー・スウィフトさんもこれに反応して声明を出している。
テイラー・スウィフトさんといえば、オーストリアでのコンサートが中止になっている。これもネットの情報が原因になっている。ヨーロッパでは中東・イスラム系に対する差別が横行している。肌の色が違うために社会的に成功できない。ISISはこうした人たちに対してヨーロッパを破壊するように勧めている。今回テイラー・スウィフトさんのコンサートを襲撃した少年(19歳、17歳、15歳だそうだ)の中にはネットにISISへの忠誠を誓う文章をアップロードしていた人もいるという。
テイラー・スウィフトさんのコンサートにはアメリカなどから多くのファンが押し寄せる。ホテル料金は高騰し「スウィフトノミクス」などと言われるそうだ。高い料金を支払ってコンサートを楽しむ人もいれば肌の色が違うだけで一生社会の底辺から抜け出せない人もいる。
今回紹介した2つの事例には異なる点もある。イギリスでは多数派の白人の少数派移民に対する怯えがネットの虚偽の情報に刺激された。一方でテイラー・スウィフトさんのコンサートは逆に少数派の絶望が暴力の動機になっている。
共通している要素もある。社会全体に広がる格差と閉塞感がネット情報に刺激され暴力行為となって具体的な形を作っている。つまりこれは同じ現象の異なる極であるということになる。
資本主義は格差に依って蝕まれており。話し合いで共通点を探る「話し合い」を前提にした民主主義も成り立たなくなりつつある。こうした格差と共通基盤の消失という問題はアメリカ合衆国にも存在する。欧米の資本主義・民主主義の基板が内側から揺らぎつつあるのかもしれない。
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