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日本はなぜ「失われた数十年」から抜け出させないのか

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日本がバブル崩壊の余波に苦しんでいたときと同じようなことがまた再現されようとしている。

アメリカの景気減速不安と植田日銀の性急な政策変更に端を発した一連の騒動は内田副総裁の「金融市場が安定するまでは金利を上げません」発言で収束を迎えつつある。だが結果的に日本銀行は金利を引き上げることができなくなり、投機目的の円売りは続きそうだ。とはいえかつてのような安定した相場が戻ってくることもない。

結果的に政府・日銀は何も決められなくなり中途半端な状況が固定する。ただ日本人は「これはおかしいのではないか」と声を上げることはなく、何も決めれない状態に慣れて何もしなくなってしまう。こうして日本経済は停滞する。

この仕組みについて今一度おさらいしておきたい。

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アベノミクスは事実上の財政ファイナンスにより日本経済を支えてきた。政府はこの間に構造改革を進めるべきだったが日銀に甘え低金利に慣れてしまった。しかしこのアベノミクスは「経済成長を忘れた日本人」にとって一種の救済になっていたことも事実である。

そのうち曖昧な「デフレ状態」「デフレマインド」という言葉が独り歩きする。日本経済が成長しないのは停滞したマインドのせいであるという主観的な主張が行なわれた。そして、アベノミクスの余波による円安と世界的なインフレが始まってもまだ「日本はインフレではなくデフレマインドから脱却できない」と言い続けていた。

こうして日本経済が円安に耐えられなくなると、政治家からは「日銀は円安をなんとかすべきだ」と声が上がる。総裁選を意識した発言だが自分たちでなんとか知恵を絞ろうとはしない。

日本銀行は従来より日銀文学というわかりにくい表現を好むが今回の金利引き上げは日銀文学に政治への忖度が加わった極めてわかりにくいものだった。このように政治と日本銀行は村を作り「和歌」のようにわかりにくい表現でお互いに意思疎通をしている。責任を回避しつつ相手も批判しないためには「雅な和歌」に頼るしかない。そして自分たちがコントロールできなくなると今度は祈祷を始める。全て人智を超えた災害であり神に祈ってそれが去るまで祈り続けるしかない。

ところがこの「和歌」は外国人には理解できない。このため和歌の雅さは理解されなかった。こうして円キャリートレードは巻き戻され世界的な株安の原因となった。

バブルも大蔵省の総量規制通達により崩壊している。大蔵省は金融機関との間に村を作っていたが影響は村の外にも及んだ。

じめじめとした閉鎖環境を好む日本では外との接触が体制転覆につながることもある。鎌倉幕府が元寇によって動揺したり江戸幕府が黒船によって崩されたのがその一例である。

結果的に日銀は安易に金利があげられなくなった。もはや怖くて思い切った意思決定はできないだろう。とはいえ金利があげられなくなると部分的にキャリー・トレードが復活し円安が定着し国民生活は圧迫される。また金利の引き上げによって淘汰されるはずの企業も淘汰されずそのまま温存されることになるだろう。

だが、政府がこれをきっかけに意識を変えたという報道はない。日銀も財務省もこれまでの考え方は間違っていなかったと主張しつづけている。また政府も貯蓄から投資という流れは変えないという。

円キャリートレードの流れはおそらくこれまで通りにはならないだろう。政府と金融当局の意向でポジションが一夜にして崩壊することが証明されてしまったからだ。円キャリーに依存していた信用取引参加組は強制退場を余儀なくされた。もう市場に戻れないほど傷んだ人達もいるはずだ。

だが最も深刻なのは物を言わない人たちへの影響だろう。おそらく今回の件で新NISA組の一部は「株式市場は怖いところだ」と考え二度と戻ってこないだろうが、彼らが政府に対して声を上げることはない。前回のバブルの崩壊でも貸し剥がしにあった企業は声を上げることなく金融機関から離反した。また賃金が上昇しない状態に慣れた労働者たちも声を上げなかった。彼らは節約志向を定着させ今に至っている。

日銀と政府が場当たり的な対応を繰り返すのは情緒的な「和歌」に頼り客観的な指標を元に状況共有をしようとしないからだ。なにかおきたとしてもその意味づけを分析することもできない。結果的に意思決定が怖くなり何もできなくなってしまう。できるのは和歌のやり取りと祈祷だけだ。

国民も何もしてくれない政府に慣れてしまい「この状況を乗り切らなければ」と考えるようになる。これが失われた数十年の正体であり、今まさにそれが繰り返されようとしている。

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