バングラデシュの政変が興味深い展開を迎えている。あのグラミン銀行でノーベル平和賞を獲得したユヌス氏が帰国し首席顧問として暫定政権を率いる。どうせ軍部が力で政権を掌握してしまうのだろうと思われていたが、学生たちがそれを押し返した。現在ヨーロッパにいるユヌス氏はAFPのインタビューに応え政権参加への意欲を表明した。
バングラデシュの問題は極度のインフラ依存と産業の未成熟だ。産業を成熟させるためには起業家が「元手(資本)」を獲得し事業を起こす必要があるが、金融が未発達なバングラデシュではこれが成り立たない。そこでユヌス氏は「意欲のある個人にお金を貸せば」自活するようになるのではと考えた。それがグラミン銀行のマイクロ・ファイナンスである。あくまでも福祉の領域ではなくビジネスの領域で事業展開したことが大きな特徴だ。
与党アワミ連盟はこれを快く思わず「ユヌス氏は利子を取って貧乏人をビジネスの道具にしている」と批判してきた。
ユヌス氏は国際的に「貧困層のための銀行家」として知られている。しかしハシナ氏は、ユヌス氏が貧しい人々の「血をすすっている」と述べ、グラミン銀行が法外な金利を請求していると非難していた。
ノーベル平和賞受賞のユヌス氏、暫定政府を主導へ バングラデシュ
今回、軍と学生が話し合ったことからいくつかのことがわかる。
- 軍は国民から一定の尊敬を得たいと考えている。だからハシナ首相の弾圧には追従しなかった。また今回は学生の意向を受け入れ軍とは関係がないユヌス氏を迎え入れることを決めた。
- また学生たちもバングラデシュには中流階級の発展が必要だと理解している。つまり政府主導のインフラ整備と低賃金の縫製労働以外のなにかを求めているのだ。
だが、軍部は少なくとも力によって国民をおさつけることは難しいと判断したのだろう。与党アワミ連盟は長い間野党勢力を力で押さえつけてきたがこれは失敗だった。現在は揺り戻しが起きていてアワミ連盟の幹部や家族たちが大勢殺されているそうである。
もちろん、おそらく既得権維持を求める軍とユヌス氏がうまく折り合って行けるかは未知数である。また既得権の保持を求める軍が援助を求めて中国に接近するシナリオも想定される。インドと西側諸国はこの地域に中国が入り込むことを恐れている。バングラデシュを知っている人ほど過去のレコードを参照し「今回もどうせうまくゆかないだろう」と分析することが多い。
いずれにせよ当初考えられていたように軍部が民衆革命を鎮圧するという中東でありがちなシナリオとはやや異なる展開を見せている。同じイスラム圏と言ってもアラブとは国民性がかなり異なっていることがわかる。
事態の沈静化を受けてユニクロやH&Mといったファストファションの取引先は徐々に再開されているようだ。
今後、バングラデシュは与党・野党が参加した状態での普通選挙を目指すとされている。現実的には難しい局面も多くあるのだろうが、アワミ連盟を放逐し歓喜に包まれるバングラデシュの国民がこのまま笑顔でいられることを願わずにいられない。