ざっくり解説 時々深掘り

高齢者にやさしいPCとはどんなものか

PCデポの問題について考えているうちに、高齢者はパソコンのメンテナンスでカモにされやすいということがわかった。であれば、メンテナンスフリーのパソコンを作ればいいわけだ。高齢者の人口は増え続けているわけだから、ニーズもありそうだ。
では高齢者に優しいパソコンとはどんなものだろうかと思った。

シングルタスク

最初の問題はマルチタスクである。これがなぜ問題なのか、高齢者に接していないと分からないのではないだろうか。例えば、次のような動作を考えてみたい。金融機関のオンライン作業をしている。承認のためにメールによるワンタイムパスワードが求められる。メーラーを立ち上げてURLをクリックするとブラウザーに戻る。実に簡単な動作である。
だが、パソコンが分からない人はこの作業ができない。アイコンをクリックすると別ウィンドーが立ち上がるということは理解できるようだが、ブラウザーとメーラーが別のウィンドウであるということが分からない。アプリケーションという概念がないのだ。そこで「メーラーを立ち上げたらブラウザーのウィンドウがなくなった」ということが理解できないのである。アプリを切り替える、コマンド+タブがあるじゃないか(これはマックの場合……)と思うのだが、アプリという概念がないために、コマンド+タブが何をするものかが理解できないのである。
これの解決は簡単だ。マルチタスクをなくしてしまえばいいのである。すると普段の動作からアプリを切り替えることを強制されるようになる。

データバックアップと障害対応

次に困難なのが不具合になった時のデータレスキューである。普段からバックアップを取ればいいじゃないかと思うのだが、そもそもバックアップが分からないし、外付けのハードディスクの設定もハードルが高い。だから、オンラインに直接接続できてバックアップを取ってくれる仕組みがあればいいことになる。システムは外から復旧すればよいので、設定だけが残っていればよい。
もう一つが障害対応だ。突然立ち上がらなくなったりするとどうしようもなくなるのだが、もしハードウェアの診断などがレポートで出てくれば、それを電話で確認することができる。問題の切り分けが楽になるはずだ。これはサポートスタッフとのやり取りも楽になるはずだが、家族の間のやり取りも楽になる。子供が遠くに離れている両親のために機械を買ってセットアップして置いておくということがあるのだが「いきなり画面が真っ黒になった」と言われてもよく分からないのである。
最後の課題はOSのバージョンアップだ。Windowsはアップデートのたびに騒ぎを起こし、iOSもパスコードを要求されたりと、すんなり行かないことがある。できればアップデートしないで欲しいと思うのだが「セキュリティ」などと言われると拒否もしにくい。

音声入力

ここまで「高齢者」をひとくくりにしてきたのだが、高齢者にも二種類いる。株式投資をしたいためのパソコンを持っているような人たちもいる。いつ覚えたのかは定かではないが、キーボードの操作はできるらしい。しかし、キーボードの操作が全くできない人たちもいる。こういう人たちにとってはフリック入力すら難しいので、音声入力が求められる。しかし現在の音声入力は画面上のボタンを押さなければならない。ところがキーボードに拒絶反応がある人というのは、画面に描かれた絵とUIボタンの区別ができない。
フリック入力が難しい人でもガラケーの文字入力はできたりする。どうやらソフト的に表現されたボタンが苦手なようなのだ。
そこで、音声ボタンを独立させるほうがよい。主に利用するのは検索とメッセージサービスだ。LINEのようにそのままメッセージが残せるサービスもあるが、基本はテキストメッセージングサービスなので、ボタンを押して言葉を吹き込めば文字化されたほうがよさそうだ。電話は知っているのでボタンすらなく、受話器をあげたら音声文字入力ができるというものでもよいかもしれない。

拡張性

ここまで考えてくると「それってiPadに近いのではないか」と思える。iOSはマルチタスクに対応しておらず「使いにくいなあ」と思えるのだが、間違いが減るというメリットがある。
一方、iPadの最大の弱点は対応するプリンターが少ないところかもしれない。写真、レシピ、などやたらと紙で印刷したがるのだが、AirPlayに対応するプリンターがなかなかない。iOSは基本的に画面で楽しむことが前提になっているからだろう。もう一つは年賀状なのだが、これは対応アプリがあるようだ。iPadにはキーボードがないので住所録の整備が難しいという問題がある。Bluetoothのキーボードを使えばよいとは思うのだが……

マーケティング

高齢者向けに製品を作ったら「簡単に使えますよ」というようなマーケティングをしたくなる。しかし、実際の高齢者は「弱者扱い」されることを極端に嫌うようだ。実際の商品コンセプトはタブレットに近い訳だから「おしゃれで使いやすい」製品だという位置づけが必要かもしれない。

当事者には意外と分からない、かも

これを書いていて思うのだが、当事者に「高齢者に使いやすいパソコンとはどのようなものか」と聞いてもよくわからない。自分はまだまだ現役だと考える人もいるだろうし、何が分からないのか分からないという人もいるだろう。だから、顧客にリサーチをかけても分からないのだ。逆に、カスタマーサポートをまじめにやっている人たちは知っているはずだが、開発現場とは切り離されていることが多いのではないかと考えられる。


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