月末の政策会合で日銀が金融政策を正常化するのではないかという観測が広がり円が一時153円台に急伸した。キャリー・トレード(金利の安いところでお金を借りて高いところで儲ける)の為替への強い影響がうかがえる。ただし今後の流れについては状況が混沌としておりよくわからない事が多い。特に大統領選挙が非常に大きな懸念材料になっている。
日銀の政策決定会合が月末に行われる。金利の引き上げと国債買い入れに関する「何らかの発表」が行われる可能性がありそれに対応する投資家たちが円キャリー・トレードのポジション修正を行ったのではないかと見られているそうだ。ただしBloombergなどは7月の日銀利上げはメインシナリオとはみなしておらず、仮に発表があればサプライズになるだろうと考えているようだ。ただし「7月の利上げはリスクシナリオ」とする人が9割いるとも伝えており警戒感は高まっている。
今回のポジション修正は日米双方からの政治的メッセージがきっかけになっている。一方はトランプ氏でありもう一方は河野氏だった。続いて茂木幹事長も利上げを容認する発言を行っている。つまり政治的な展開によって状況が再び変化する可能性が高い。
トランプ・河野のBloombergのインタビューが行われたときはバイデン大統領が大統領選から撤退しておらず銃撃事件の余波でトランプ氏の神格化が進行していた。その後トランプ氏はもとに戻ってしまい神格化が長続きしない可能性がある。
また英語が堪能な河野太郎氏は自分のポジションを誇大に宣伝した可能性がある。そもそもBloombergがトランプ・河野のインタビューを並べたのは河野太郎氏が次の総理になるという思惑があったからだろうが、日本で河野太郎氏はそのような評価はされていない。
このあとに河野氏は鈴木財務大臣からたしなめられており「直接日銀に要請したわけではない」と発言を修正している。大統領制のアメリカと違い議院内閣制の日本では強いリーダーシップが発揮しにくい。つまり政治家の突出した発言は寧ろ「出る杭は打たれる」とばかりに弱められる傾向がある。投資家たちがそれに気がつくのは時間の問題だろう。
旧安倍応援団(積極財政派)の中にも一連の発言に反発する動きがある。保守派を繋ぎ止めておきたい一部議員にも「議論を加速させる(つまり性急な利上げに抵抗する)」と宣言している人がいる。日和見的な傾向が強い茂木・河野両氏のもとでこの問題が総裁選挙のアジェンダになるかは微妙なところだろう。
仮に投資家が「茂木さんも河野さんも発言に裏打ちがなかった」と看破してしまえば失望から円が再びキャリー・トレードのターゲットになる可能性はある。また一部の議員の要請にしたがって利上げを急いだと見られたくない日銀の選択肢を狭めてしまうのではないかと懸念する声も聞かれる。
実はアメリカの側にも不確定要因がある。まずトランプ氏が大統領になった場合放漫財政を通じてドルを弱化させる危険性が指摘されている。サマーズ元財務長官などは「トラス化」と言っている。共和党は民主党の提案する財政拡大には反対だが実際の提案を聞いているとどれも赤字を拡大させるものばかりなのだそうだ。結果的にトランプ氏が誰を財務長官候補にするかが重要だが、今のところ「イエスマン」が採用されるのではないかと見られている。
さらにAIの台頭をきっかけにした株価ブームの持続性にも陰りが見えてきた。アルファベット(Googleの運営会社)が23日に発表した決算は好評だったが株価は思ったように伸びなかった。AIブームの持続性が本物かどうか市場は見極めようとしているのかもしれない。そもそも年初来30%も値上がりしてるということで割高感も出ている。アメリカの景気は好調だが新型コロナで蓄積した貯金を家計が使い果たしているという評価もある。現在のアメリカ一人勝ちの要因の1つがこの例外的に好調な消費だがこれが一気に巻き戻ってもなんの不思議もないということだ。