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目的の不在がデスマ案件を作る

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タイムラインに「築地新市場は設計ミスだ」というツイートが流れてきた。不具合はいくつかあるらしいのだが、仲卸のスペースが足りず、通路が狭すぎて荷物を積んだ荷車が行き来できない恐れがあるらしい。
真偽は分からない。しかし、ありそうな話ではある。もともとスペースが決まっているところに無理矢理必要な数を埋め込んだのだろう。一方で、ありふれた話でもある。IT業界ではよく見られることだ。無理矢理マネジメントで仕様を決めて、あとで現場が「これは使えないですよ」という。それでもインプリするのだが、やはり使えないということになり、大混乱するのだ。
それをなんとか納めようとして泥沼化することを「デスマーチ」と呼ぶ。
しかし、製造業のプロジェクトではデスマーチは起らないものとされていた。曲げられない鉄は曲がらないわけで、マネージメントは現場を無視することはできなかったのだ。同じことは建築にもいえる。日本は目に見えて触れるものは扱うことができる。
どうしてこのような気風が生まれたのかは分からないが、農業が関係していたのかもしれないと思う。稲を育てるためには水と温度が必要だ。殿様が「稲が二倍に増えろ」などと叫んでも、農家を24時間働かせても稲は増えない。つまり、日本人は「所与の」ものは尊重する知恵を持っているということになる。
しかし、目に見えないと「なんとかなるんじゃないか」と考えてしまうらしい。IT産業はこれで没落したのかもしれない。プログラムだったらなんとかなるんじゃないかと思ってしまうのだろう。
だが、オリンピックの競技場の問題や築地市場の問題を見ていると、それも過去の話になってしまったのかもしれないと思う。甘い見積もりも、仕様のつめの甘さも、現場を交えずにマネジメントだけで「こうだったらいいなあ」という希望的観測でものごとを決めてしまっていることに起因している。
だが、それとはすこし毛色の違う引用ツイートを見つけた。


上位目的というのは聞き慣れない言葉だ。検索したところ、ワープロで文章を書くというのが目的だとすると、プレゼンの為に文章を書くというようなことのが上位目的になるのだそうだ。近視眼的な目的ばかりに気を取られて、中長期的な視野が持てないというような意味だろうと推察した。それが流行っているというのだ。
プログラムは完成した段階で不具合があると作り直しということになる。しかし、コンクリートは固まってしまうわけで、壊してやり直しということはできない。だから、先に進めてしまうということになる、
デスマーチは集団思考が作り出す。使う人・作る人・意思決定する人が分離されて起る問題だ。しかし、中長期目的の不在は、すなわちリーダーシップの不足である。意思決定に迷ったときに「原点に戻ろうではないか」というヴィジョンが提示できる人がいないのだ。
こうした問題は政治の世界でもよく見られる。最近では憲法がデスマ案件になっている。もともとは何かの不具合の修正だったのだろう。やがてそれに「気持ち」が乗るようになった。全文に日本を讃える文章が掲載された。さらに「自分たちを落とした有権者はけしからん」ということになり、人権はふさわしくないとか、日教組が学校で余計なことを吹き込むからだというようなことになった。最終的にできあがったものは「これは憲法をとはいえない」というような代物だ。最近では「これは案なので、そのまま議論に乗ることはない」などと言い出している。
ここでは課題と心情を分離できないことが問題になっている。最近では憲法を変えること自体が自己目的化しているようだ。さきほどの呟きを引用すると「上位目的」が失われているのだ。憲法草案を決めた人たちの中には「なぜ憲法を変えねばならないのだ」と疑問に思った人はいなかったらしい。自民党の党是だからというのが唯一示された理由である。
つらつらと考えていると、これは悪い兆候だなあと思う。欧米はコントロール不能なものをどうコントロールするかという視点で経済や社会を成長させてきた。ところが、日本はコントロールができないものに依存して生きて来たように思える。稲は人間の思惑通りには成長しないし、鉄は曲がらない。だからうまくやってこれた。だが、いったんコントロールを手にすると集団思考が働き、すべてをぶちこわしてしまうのだ。
「ああ、嘆かわしい」とか「日本終了」とか思うわけだが、最大限ポジティブになってみると次のような教訓が得られる。これさえ克服すれば課題の解決は可能だということになる。

  • 集団思考を避けるために、強力なリーダーシップを置く。
  • リーダーシップを円滑に働かせるために、フォロワーシップを発揮する。
  • 使う人、作る人、意思決定する人が話し合って物事を決める。
  • 課題と心情を分類し、目的を明確にする。
  • 目的はチームで共有する。

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