憲法改正について聞くと「立憲民主党が妨害している」と答える人が多いのではないかと思う。だが実際には自民党の中で議論がまとまっていない。それどころか衆議院と参議院の間に深刻な見解の相違がありドタバタとした状況が続いている。
緊急事態条項と参議院の緊急集会について党としてのまとまった見解がない。
自民党の内部で具体的な条文づくりを念頭に置いた議論が始まった。しかし中谷副本部長の口調はどこかのんびりしている。「議論は今始まったばかりだ」というのだ。岸田総理の任期はあと数ヶ月で切れる。
会合のあと実現本部の副本部長を務める中谷・元防衛大臣は記者団に対し、「まさにスタートからの議論であり、今後議論は詰まっていくと思う。衆議院と参議院でともに同じ意識を持ってやっていきたい」と述べました。
自民党は現在4つの項目を掲げている。このうちもっとも国民の説得が簡単なのは自然災害絡みの緊急事態条項だろうということになっている。
しかし、ここで問題が生じた。それが参議院の緊急集会の扱いだ。憲法54条2項に条文がある。
衆議院は自然災害が起きたときに衆議院議員の任期が切れると大変だという理由で緊急事態条項を新設しようとしている。だが参議院がこれに難色を示した。参議院は3年ごとに1/2が入れ替わる仕組みになっており緊急事態が起きたあと衆議院議員の任期が切れたとしても「議会がなくなることはない」と言っている。またそもそも憲法は緊急集会という仕組みを想定している。わざわざ緊急事態条項など作らなくても現行憲法で対応可能なのだ。
逆に言えば参議院議員の少なくとも1/2が残るのに「議会が消えてなくなる」というのは参議院軽視だという感情的なわだかまりもあるのだろう。逆に参議院は合区の解消を優先させたいという気持ちもあるのかもしれない。
さらに「無党派層(ネトウヨ層を念頭に置いているのだろうが)の気持ちを引き止めるためには憲法9条改正を急ぐべきだ」とする人たちがいて議論がまとまらなくなっている。
岸田総理はかねてより「憲法改正こそが我が悲願だ」と主張している。だがこれは保守派を引き止めるための空疎なメッセージに過ぎず憲法改正の内容について踏み込んだ発言は行っていない。また、任期が切れる直前まで必要な環境整備をやってこなかった。
立憲民主党の絶対護憲派は特に憲法改正に後ろ向きだ。ここに無党派(ネトウヨ層を念頭に置いているのだろう)を獲りたい維新と国民民主党が参戦し憲法改正議論はいたずらに神学論争化していた。一度緊急事態条項と参議院の緊急参集についての議論を読んだことがあるが「何を言っているのかさっぱりわからない」以上の感想は得られなかった。
憲法改正議論は国会議員たちの「おもちゃ」になっておりまとまらない議論が続いている。感情的なメンツの問題と神学論争的な議論が続く中、無党派層の関心は確実に憲法改正議論から離れている。
そんな中起きたのが石丸ショックだった。切り抜き動画を使った単純な「今の政治はくだらない」というメッセージが流布され160万人の人が集まった。無党派層(ネトウヨ層を念頭に置いているのだろうが)を集めようと盛んに憲法改正に意欲を見せていた人たちは実際の無党派層が何を求めておりどの程度の政治リテラシーを持っているかに関心を寄せてこなかった。
彼らの頭の中には自分たちのことしかない。実際の有権者たちを理解しようとは全く考えてこなかったのである。