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私達のやりたいようにやらせて 対話に疲れたEUにルペン・オルバン連合が誕生

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EUの第三会派が入れ替わった。ルペン・オルバンの両氏が会派を組み第三勢力に躍進した。彼らの主張は加盟国の権限が拡大だ。要するに「私達のやりたいようにやらせてくれ」と主張している。

背景にあるのは中流層の不満なのだろうが「これが決定的なファクターだった」というものが見つからない。だか結果的にエコシステムが崩壊するようにしてEUという人工林は緩やかな崩壊に向かっている。

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EUでは中道右派・中道左派がそれぞれ第一勢力と第二勢力を形成している。この両者が協力してフォン・デア・ライエン体制が存続するものと見られている。

今回のEU議会選挙では極右が躍進し全体の20%以上の議席を獲得したが一致団結はできていない。その極右がどのように協力するかが当面の争点だった。結果的には極右色を残した政党と既成政党化(脱悪魔化と表現されることもあるそうだ)を目指す2つのグループが生まれた。

フランスの議会選挙での「敗北」を受けた国民連合(以下ルペン党)の軸足はEU議会に移ったようだ。ハンガリーのオルバン首相とタッグを組み第三会派ができあがった。この会派を率いるのは次期フランス首相になりそこねたバルデラ氏である。メローニ氏はこの会派には加わらず第四会派を形成している。極右ドイツのための選択肢はどこにも加わらず、マクロン大統領率いる中道右派改革会派が第五会派になった。

ルペン氏は機能停止がほぼ既定路線となっているフランス議会からは距離を起きEUで存在感を示すことで次期大統領の座を目指すものと見られる。

これまでEUはしっかりものとドイツとフランスがその他の「なってない国」を牽引する構図だった。だが全体的な環境が悪化するとイギリスは脱退し、フランスとドイツの政治は弱体化した。ここで活き活きしているのがもともとちょっと汚い水に住んでいたイタリアのメローニ首相とハンガリーのオルバン首相だ。そこにルペン氏が加わろうとしている。

フランスでは予定通りに政治的混乱が広がる。急進左派に支配された左派連合はマクロン大統領との対話を拒否した。マクロン氏は専門家からなる非政治家の内閣を組閣する可能性がある。この構成になると排除されたと感じた左派は賛成に回らないだろう。予算(会計年度は1月から12月だそうだが)が成立しない可能性も浮上しているという。

「国家予算がまともに通らない」ことは民主主義の弱体化を意味している。

EUの新しい第三会派は「EUの権限が強くなりすぎた」と考して加盟国に権限を委譲するべきだと主張している。これはアメリカ共和党の主張に似ている。アメリカ合衆国は多様性に疲れ果てており州の中には連邦の権限が強すぎると感じる人達がいる。最高裁判所も保守派に支配されている。連邦の規制は保護主義的過ぎるとして40年続いたシェブロン法理が否定されたばかりだ。そしてそんなアメリカも連邦予算が決まらない状態が続いている。今季予算は9月に切れるがおそらく大統領選挙までは本予算も決められないのではないかと思う。

もちろん仮に権限が州や加盟国に降りてきたとしても問題が解決するかどうかはわからない。単にこれまでのような複雑なエコシステムにはもう耐えられないと訴えているに過ぎず問題解決は見通せそうにない。

だが少なくともブレグジットのような脱退は得策でないと多くの反EU勢力は気がついたのだろう。イギリスではブレグジットを主導した保守党が歴史的惨敗を喫した。

日本でも政治的対話が難しくなりつつある。日本人は表立った反論はせず裏で「あいつの言っていることはくだらない」と議論を無効化する傾向がある。政治的対話どころか対話というエコシステムが崩壊に向かっているといってよい。かつて森林だったものは砂漠に変わりつつある。

だが日本の国語空間が「なぜ崩壊したのか」と問われても「これ」といった要因を特定することは不可能だ。「教育にお金をかけないのが悪い」「スマホが悪い」「SNSがいけない」と言っても何も解決しない。

同じようにEUの崩壊にもこれと言った要素がない。補助金目当ての南欧・東欧をしっかりもののドイツとフランスが抑えるという構図があった。だが問題児はどんどん主流化してきておりEUを支えてきたフランスの民主主義は風前の灯といった風情である。

輪番でEUの議長国を務めるオルバン氏は絶好調だ。この機会を最大限に利用しようと誰にも頼まれていないのにウクライナに行き「無駄な戦争はやめるべきだ」と訴えてゼレンスキー大統領を怒らせた。その後もロシアと中国を訪問し和平交渉への参加を呼びかけている。仮にトランプ氏がアメリカ大統領に返り咲くとおそらくウクライナにとってはかなり好ましくない展開になるだろう。

いずれにせよ複雑で多様な森は破壊されつつあり「このままでは砂漠化するだろうな」という印象だ。とはいえ一旦砂漠化が始まるとどこから手を付けていいのかわからなくなる。豊かな中間層が支えてきた「生物多様性」は破壊されつありいたん沸点(ティッピングポイント)を迎えるとあとは崩壊の一途である。

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