いよいよ都知事選挙が始まった。イベントとしては面白い。自民党がどのように崩壊するのかということが見えそうだからである。自民党は一度崩壊の危機に直面した。日本が高度経済成長を終え「その犯人探し」が行われた。小泉純一郎首相が「自民党をぶっ壊す」と言わなければ、本当に崩壊していたかもしれない。結局、三代続けて後継が無能だったために、本当に政権を失った。
現在の自民党人気は安倍首相によるところが大きい。民主党政権が問題を解決できず、地震や原発事故などで民心が動揺した。そこで安倍首相が「もう、心配しなくてよい」と言った。解決策は何もないのだが、その言葉に安心した人が多かったのだ。参議院選挙でも「野党が頼りないから」という消極的な理由で自民党に投票した人が多い。
ところが自民党はこの過程で自浄作用を失って行く。党外にライバルがいなくなり、党内の派閥対立もなくなった。つまり、代替勢力がいなくなってしまったのだ。そこで残ったのが、東京都議会に代表されるような利権代表の人たちである。形の上では石原伸晃衆議院議員がトップということになっている都連は実質的には、都議会の「族長」たちに抑えられている。都議会側は「権力が温存されるように」と考えて、利権を代表してくれそうな人を候補に選んだ。
しかし、自民党だからという理由で投票する人はそう多くなさそうだ。それは、都民の多くが利権構造と関わっていないからである。彼らはアウトサイダーで無党派層などと言われている。つまり、利権の分配ができなくなった時点で自民党は機能しなくなってしまうのだ。
このため利権構造から排除されていた(いちおう身内であるところの)小池百合子氏が「利権構造と対決する」などと言い出した。いわば派閥抗争である。ここには面白い構造が見られる。組織内には協調関係と同時に緊張関係がある。これがバランスを取っていて安定した(つまりは新しいことは何も決められない)形態が作られている。そのバランスを維持するために、自民党都連は協調してくれそうな部外者(競合しない故に自分たちの利権を侵さない)を選んできた。その戦略が猪瀬・舛添と破綻してしまったのだ。
では、なぜ都連の中からリーダーが出てこなかったのか。それは、彼らが利権構造の中で競合関係にあるため、一人勝ちを許さない雰囲気ができているからだろう。この文章の最初で、現在の自民党は、安倍首相の「強いリーダーシップ」が支持を集めていると分析した。ところが、足下ではリーダーシップの欠如が進行している。安倍首相は党内の反対派を駆逐してしまったために、代替も存在しない。あとは「力強いリーダー像」を演出し続けるしかないわけだが、すると内部の脆弱化が進むことになる。あとは悪いスパイラルが回るだけだ。
自民党が派閥抗争で分裂したために、都連は「自分たちが推薦しない人を応援したら、親族を含めて除名する」というお達しを出したそうである。だが、自民党員たちはなぜ自民党を応援するのだろうか。それは、自分たちが利権構造の一部として恩恵に預かりたいからだろう。そこで、もし利権に預かれなくなったらどうなるのか。彼らは自民党にいる理由がなくなる。つまり「除名するぞ」という脅しが効果をなくしてしまうのだ。すると利権構造であるところの自民党は崩壊してしまうことになる。自民党が崩壊しない唯一の方法はそれを共産党や公明党のような宗教組織にしてしまうことだけだろう。
舛添スキャンダルがあったときに何が起ったかは分からない。利権構造を守るために後先考えず追い出してしまったように見える。強いリーダーシップがないだけでなく、中期的に何が起るかということを予測していなかったことになる。自分たちの利潤を追求することだけで頭がいっぱいになり、それ以外のことが分からなくなってしまったのだろう。数年前には都議の自殺騒動も起きている。樺山たかしという都議が「内田許すまじ」という走り書きを残してなくなってしまったのだ。都議会がどれだけ閉鎖された空間だったかということがよく分かるエピソードである。
今回「敵を応援するな」と言っているのだが、実際には「利権構造をぶちこわす内輪を許すな」という論理である。派閥闘争に夢中になり、それがどのように見えているかが分からなくなっているのだろう。
目下のところの利権はオリンピックだが、これは2020年には消えてなくなってしまう。利権が守られているうちは自浄作用も働かず、派閥抗争を通じて組織を内側から破壊している訳だから、オリンピックは強烈な毒薬ということが言えるだろう。形は違っているが、アフリカの部族が石油などの利権を巡って血みどろの抗争を繰り広げるのに似ているように思える。
内戦が続くのはなぜか。それは敵が外におらず、内戦を長引かせるだけのリソースが潤沢にあるからだ。