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全ては植田のせい? 長期金利の上昇に歯止めがかからず

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日本人観察としては非常に面白い事例だ。日本人は原因の究明や構造分析には興味がなく「どうしてこうなった」と犯人探しを始める。結果的に延々と「誰のせいだ」という議論が始まる。そうして騒いでいるうちに嵐が過ぎ去るか新しい状態になれるかする。この繰り返しが「失われた30年」の正体だ。

その意味では想定通りのことが起きている。長期金利が上昇を始め日経平均などの株価が下がり始めた。ニュースは盛んに現象を取り上げいつまで続くのかという考察を行なっている。

この「原因」として囁かれているのが植田日銀総裁である。「日銀総裁が市場とのコミュニケーションを失敗した」と岸田総理ら政府・与党関係者が植田さんを叱責したという週刊誌報道が出てきた。植田総裁を批判しても全く状況は改善しないことは皆わかっていることだろう。だがそれでも犯人探しをやめられなくなってしまうのである。

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長期金利の上昇が止まらない。ロイターは「日銀がこっそり金融政策を修正するのでは?」というステルス・テーパリングの懸念が払拭できないと指摘している。

山脇氏は、13日の定例の国債買いオペ(公開市場操作)で市場が想定していなかった残存「5─10年」ゾーンのオファーが減額され、「(日銀が)ステルス・テーパリング(秘密裏に行う緩和縮小)」を始めたことが発端となり、債券投資家の間で需給不安が高まったと話す。

実際に株価は下がっているようだ。専門家は下げはやや過剰反応であり大統領選挙前まではボックス圏(つまり決まった範囲)で推移するだろうとして市場の懸念を払拭しようと躍起である。

そんななか、週刊誌レベルでは「政府・与党が植田総裁を叱責した」という報道も出てきた。【スクープ】岸田首相が「日銀総裁を叱った」…!? 円安を加速させる「いいカモ」植田総裁の失言に、政権も財務省も「なんとかならんか」によると岸田総理も植田総裁を日銀に呼び出して釘を刺したという。

日本銀行は安倍政権の時間稼ぎに過ぎなかったアベノミクスの後始末をしてい流に過ぎない。安倍政権後半には既にアベノミクス・黒田バズーカの効果は剥落しており無理なオペレーションに踏み込まざるを得なかった。その時に「なんとかしなければならなかった」のは政府の方である。

黒田総裁が退任しアベノミクスを支えていた「金利のない世界」が失われたことで植田に日銀総裁はその後始末に苦労している。植田氏は各国の中央銀行総裁とのコミュニケーションを通じて日本の通貨価値毀損の被害を最小限に食い止めている。

政府は何もしなかったのだから政府に植田氏を叱責する資格はない。むしろ植田氏は試行錯誤を通じて「日銀総裁としての政治性」を学習する途上にある。この学習には教科書も正解もない。さらに言えば政府の経済政策は迷走しており政府の支援も得られない。

植田氏の課題は厄介だ。企業や消費者をおびえさせず、利上げサイクルがやって来ると考えさせることなく、大規模な景気刺激策を支えてきた仕組みの多くを取り除かなくてはならない。言葉が極めて重要になる。植田氏と彼のチームが何を言うかだけでなく、どう言うかも重要だ。幸いなことに、植田氏はこつを会得しつある。

ここは政府与党が態度をあらためて必要な対策を講じなければならない。その対策はおそらく国民になんらかの負担を強いるものになるだろうから説得も岸田政権の役割である。

だが、岸田政権にそもそも党内をまとめる力は残っていない。これまでの派閥の影響を受けた財政再建派と積極財政派が党内で拮抗しており骨太の方針は「間を取ったものになる」とされている。積極財政派が満足するような思い切った方針にはならないだろうし財政再建派が目指してきたプライマリーバランス黒字化の目標も達成できない。今や骨太だが骨粗鬆症といった状態になっている。

仮に日銀に責任があったとしても原因を作ったのは安倍総理のアベノミクスである。ただし「安倍総理が悪い、黒田総裁が悪い」などと言ってみても仕方がない。岸田政権は目の前の状況を打開するアイディアを早急に提示する必要があるし、それができないのであれば自主的に政権を国民に返還し新たな国民審判を受けるべきだろう。つまり早期に総選挙を行うべきだ。

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