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なぜか破綻に向かって吸い寄せられるイスラエルと緊迫するラファ情勢

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わかっているのにその運命に自ら吸い込まれてゆく。シェイクスピアが好きそうなテーマである。イスラエルがその道をまっすぐに進んでいる。

ラファで空爆が行われ45名が死亡する大惨事が起きているがイスラエルは「不幸な事故」であり「そもそもはハマスが引き起こしたことだ」と説明している。さらにラファの中心部に戦車が到達し検問所ではエジプト側に一名死者が出ている。エジプト側の対応は抑制的なものだがエスカレーションに対する不安が高まっているという。

エジプトはイスラエルの政権が制御不能な状況を作り出していると指摘しアメリカはイスラエルを説得しているという。ここには「イスラエル」という一貫した何かがありそれが何らの意図を持っているという前提条件があるのだが本当にそれが正しいのかは誰にもわからない。

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集団思考の事例の一つにナットアイランド症候群というものがある。使命感のある有能な人たちが孤立した時に起こる症状で倫理的な感覚が失われてゆき大きな問題が起きる。HBRの「模範的チームはなぜ失敗したか」というケーススタディで有名になった。

イスラエルの場合は「汚職事件で訴追されると政治生命が危うくなる」というネタニヤフ首相の危うい心理状態が暴走の背景の一つになっている。だが軍部には「イスラエル防衛という使命を完遂しなければならない」という気持ちを強く持っている人たちがいる。このため全体的に「ナットアイランド症候群」のような状態になっているのではないかと考えられる。

だがその前提はもはや正しくないかもしれない。

戦時内閣の中でも分断が起きているそうだ。戦時内閣は主にネタニヤフ首相、首相と同じリクードに所属するガラント国防大臣、リクードの政敵(つまり野党)のガンツ無任所大臣で構成されている。ガンツ氏は6月8日までにネタニヤフ首相が戦後のガザ統治案を示さなければ戦時内閣を離れると言っている。一方でネタニヤフ首相と一緒にICCから逮捕状を請求されそうになっているガラント氏とネタニヤフ氏の間も険悪となり2週間コミュニケーションをとっていないという情報がある。

ネタニヤフ首相の「限定的作戦」という説明も「事故」という釈明にももはや何の意味もない。その上、ネタニヤフ首相が実際に事態掌握できているかもよくわからない状態になっている。少なくとも誰かの命令で攻撃自体は続いている。

西岸は戦時内閣の外にいる極右・超正統派が管轄しており「既に戦争状態になっている」とUNRWAが警告を発している。

国防大臣と首相が口をきいていない状態でどんな調査ができるのかはよくわからない。だがイスラエル政府は「市民に被害が及ばないように配慮したがたまたま近くにあった燃料タンクに引火して大惨事になった」と説明している。ユダヤ系の支援を失いたくないバイデン政権はこの説明を信用する意向だ。

当然、世界各国からは批判が殺到する。ヨーロッパの外務大臣会合ではイスラエルへの経済制裁が話し合われている。手続き上の議論はあるそうだが「ICJとICCの判断を尊重する」という基本ラインでは異論がでなかったそうだ。

ガザ地区で大勢の逃げ場のない人たちがなくなるという意味では既にラファ惨劇は始まっていると言って良い

エジプトはイスラエルの状況についてネタニヤフ政権の真意を図りかねているようだ。ロシアのウクライナ侵攻はプーチン大統領個人の意向が極めて大きいと考えられておりある意味「管理された」状態になっている。一方でイスラエルのガザ情勢は集団思考に陥った人たちがバラバラな状態になっており「誰が最終的な意思決定をしているのか」すらよくわからなくなっている。

CNNは「イスラエルが制御不能な状況を作り出している」とするエジプトの指摘を紹介しているのだが、これが実際に正しいのかはよくわからない。既にこの戦争を執行している人たちが制御不能な状況に陥っている可能性があるからである。

アルカヘラ・ニュースは治安当局筋の話として、回廊に対するイスラエル軍の攻撃が戦場と心理面で「制御不能な状況」をつくり出し、エスカレーションを招く恐れがあると伝えた。同情報筋は、境界に展開するエジプト治安要員の安全は譲れないと強調した。

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