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フィンテックに乗り遅れる日本の金融機関

新しい成長分野として「フィンテック」という言葉が流行している。ITを使った金融サービスを指すようだ。日本では言葉だけが一人歩きする状況なのだが、日本の金融機関はこの流れに乗り遅れるだろう。乗り遅れるにはいくつかの理由がある。

  • セクショナリズムに走る金融機関の組織運営
  • 全ての問題を完全に排除したがる極度の潔癖さ
  • ITリテラシの低い顧客

アメリカ人の間では小切手が廃れ、小口のやり取りを電子メールで行う機会が増えているそうだ。相手のメールアドレスを登録するだけでお金のやり取りができるのである。小切手のようになくす心配がないと宣伝されている。これは、フィンテックとしては簡単な部類である。
電子メールでお金のやり取りができれば、ATMの長い行列(時間がかかるのはたいては振込だ)は短くなるだろう。これは国全体の生産性を著しく向上させるに違いない。だが、日本ではこのようなことは望むべくもない。「電子メールでお金を送るなんて危ないことできない」という感想が一般的なのではあるまいか。小口でも振込にはワンタイムパスワードが必要なのだが、それでも問題が起るらしい。セキュリティは日に日に厳しくなってゆく。
先日こんな体験をした。東京三菱UFJ銀行がアプリを更新した。古いiOSでは利用ができなくなった。そこで銀行に「どうすればよいか」を聞いたのだが、1時間かけて5人の人と話をしてやっと「どうしようもない」ことが分かった。担当者が変わったのは、専門分野を統括している人がいないからだった。つまり、全体を見渡している人がいないのだ。5人に最初からいちいち経緯を話すことになる。生産性という立場からは有害だ。顧客の時間を奪う上に、問い合わせの人の生産性も上がらない。だが、日本ではこれを「サービス」と呼んでいる。
全体を統括する人がいないということは、生産性以外にも問題がある。IT業界は「ユーザーエクスペリエンス」を気にするが、金融機関の人にはこの概念がそもそも存在しないのだろう。彼らが問題にしているのは「自分の仕事が完全に間違っていない」ことだけなのである。誰も全体を設計していないのだから、一つの部署の変更で顧客に不便を強いるようなことが出てくる。「日本人は中心を空白にして、誰もリーダーシップを発揮しない」ということが分かっていても、かなりイライラする体験である。
銀行のいうワンタイムパスワードには振込用のものとログイン用のものの二種類があるらしい。ここまでセキュリティをガチガチに固めても安心できないのだろう。別の銀行では、携帯キャリア以外のメールにはワンタイムパスワードを送らないということにしたらしい。それでも問題が起るのではないかと思う。
アメリカ人が普通にやっていることが、どうして優秀な日本人にできないのだろうか。顧客のITリテラシーが決定的に劣っているか、全ての間違いを排除しないと気が済まない過剰な潔癖さのせいかどちらかだろう。アメリカでも問題は起きているはずなので、保険でカバーしているのではないだろうか。問題は決してなくならないが、総合的なコストは低く抑えることができる。これが生産性を上げるのだ。だが、日本人の顧客は100%安全でなければ安心できないのだろう。そのためには低い生産性で我慢する必要がある。いわゆる「安心・安全」のコストである。
しかも、手続きには窓口に行く必要があるらしい。アプリのワンタイムパスワード(振込)をカードに切り替えるための手続きはオンラインではできないというのだ。だが、なぜか海外送金の申し込みはマイナンバー登録なしで、窓口に行かなくてもできるらしい。ただし、日本に在留している必要がある。
日本が経済成長を目指すのは意外と簡単だということが分かる。文章にすると簡単なのだが、この簡単なことができないのだろう。

  • セクショナリズムを排除して全体のプロセスを統合する
  • リスクを割り切りヘッジするための仕組みを考える
  • ITリテラシを養う

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