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アメリカ合衆国がパレスチナの国連加盟を妨害へ

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ガザ情勢を解決するためにはイスラエルともう一方の当事国が必要だというコンセンサスが出来つつある。このためにはパレスチナを国連に加盟させる必要があるがアメリカ合衆国が抵抗をしている。バイデン政権は国際協調路線と言われるが、あくまでも「アメリカ主導の国際協調でなければならない」と考える傾向がある。だがこの我儘で傲慢な態度が逆にアメリカ合衆国を窮地に追いやっている。

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日本ではパレスチナ自治政府と表現されるが、このように表現するのは欧米と日本だけである。多くの国がすでにパレスチナを国家と認めている。ヨーロッパもパレスチナ政府の公認には消極的な立場だったが難民危機の発生という「今そこにある危機」を見過ごせなくなりつつある。和平交渉にパレスチナを加えるための国連加盟について今月中に一定の結論を出すということになった。

きっかけになったのは1月末のイギリスのキャメロン外務大臣の発言だった。これまではイスラエルとパレスチナの交渉を見守り最終和平案の一部(つまりゴール)としてパレスチナ国家を承認する計画だった。だがこれではいつまで経っても和平が成立する可能性がなさそうだ。そこで交渉の段階からパレスチナ国家を認め和平交渉プロセスを加速させるという方針に切り替えた。

アメリカの動向が注目されていたが、アメリカの国連大使が「パレスチナを国連に加盟させても和平の役に立たない」と言い出した。アメリカは拒否権を持っているためパレスチナの国連参加はほぼ絶望的になったと考えられている。

それではなぜアメリカはパレスチナの国連加盟に反対なのだろうか。バイデン政権はユダヤ系の寄付に依存しつつ、左派の「パレスチナ人を迫害するな」という圧力にさらされている。矛盾した要求であるため一度バイデン政権でこれを吸収し「調整」しなければならない。バイデン政権はトランプ政権と違って多国間協調を重要視すると言われるが、その協調はあくまでもアメリカ主導の枠組みでなければならない。One of Them(その他大勢)として他国に協力するということができない国なのである。

仮にバイデン政権が心を入れ替えたとしても今度は共和党との調整が必要になる。ジョンソン下院議長は今週中にイスラエル関連予算を成立させたい考えだが、身内に共和党から造反され議長職を失うリスクがある。議長のいない状態が続くとアメリカの意思決定プロセスは全て中断してしまうが、それが造反組の狙いだ。アメリカは国内の混乱を調整できなくなりつつあり、それがバイデン政権の選択肢を狭めている。

ところがそのバイデン政権のあやふやな姿勢がアメリカをさらなるトラブルに引き摺り込む。ネタニヤフ首相はこのバイデン政権の不安定さがよくわかっており、「万事バイデン政権と調整しながらやってゆきます」との姿勢を強調している。一方で和平に対してプレッシャーを与えるヨーロッパに対しては「自分達の防衛なのだから自分達で意思決定します」と言い続けている。

その意味ではイスラエルはアメリカにとっては非常に特殊な国だ。日米同盟を含む他の国との同盟関係はあくまでもアメリカが世界の中心に据えておくための装置にすぎないのだが、アメリカの政治に大きな影響力を持つユダヤ系アメリカ人にとってイスラエルは特別な国である。

アメリカはあくまでも「当事者同士で解決すべきだ」と言っているが、政権から追い落とされると刑事被告への一本道が待っているネタニヤフ首相がそれに応じる可能性は全くないだろう。一方のハマスもイスラエルからの人質をとって立てこもっている。ここはもう一方の当事者であるパレスチナ人に完全な国家核を与え自体収拾に乗り出すべきだが、アメリカはこの流れに抵抗し続けている。

ヨーロッパには難民危機の恐れがあるが、日本とヨーロッパにはもう一つ「中東危機から来る原油高」という問題がある。つまりアメリカの抵抗は日本にとっても経済的にネガティブなインパクトが大きい。第五次中東戦争を前提とした原油価格の高騰はないものと考えられているが、原油価格が高い状態が続けば日本経済はガソリン依存度が高い地方や中小企業を中心にじわじわと痛んでゆくだろう。

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