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世界経済を大混乱させかねない習近平国家主席の「新質生産力計画」

イエレン財務長官が中国を訪問中だ。中国の過剰生産能力にたいして「そんなことはおやめなさい」と中国するのが目的とされている。アメリカの国益を守る動きなのだろうとあまり注目していなかった。ところが中国側に焦点を当てたTBSの報道を見て考えが変わった。中国の新しい計画は新質生産力計画というそうだがこれが世界経済をボロボロにしかねないと感じた。中国はまた新しいバブルを起こして経済を再起動させようとしているが、これが世界中に悪性インフレをばらまきかねない。

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まずニュースをおさらいする。イエレン財務長官が中国を訪れている。中国の過剰生産能力に懸念を表明するためだという。イエレン氏は民主党政権の財務長官らしく「話し合い」で中国が普通の(つまりアメリカ流の)経済に復帰するように促す方針だ。中国はこうした上から目線のお説教は聞き入れないだろう。

中国の過剰生産能力、米財務長官が懸念表明 輸出だけに頼れず(Reuters)

TBSはこれを中国側から扱っている。新質生産力というそうだ。20兆円ほどの国費を投入してAIやEVなどを組み合わせた「生産性の高い」経済を国家主導でリブートしようとしているというものである。これはこれで何となく良さそうな気がする。不動産主導だったかつての経済は無秩序に発展しバブルを産んだ。これを中国共産党が管理したうえで「実需」に置き換えて資本主義を再起動しようとしている。

米中対立の新たな火種に!? 中国新スローガン「新質生産力」が“世界経済に悪影響”とみるワケ(TBS)

だが、よくよく考えてみると政府補助で需要を作り出してそれを海外にも輸出しようとしているという戦略になる。政府の過剰な信用創造と供給制約が合わさると悪性インフレになるのだから、アメリカが急いで回収しようとしている信用を今度は中国が世界中にばらまこうとしていることになってしまう。

仮に国内で全てが賄われるならそれでも構わない。滅茶苦茶になるのは中国経済だけだ。だが、材料になる貴金属・希少鉱物・原油などは海外から輸出してくるのだろう。これを高く買って政府補助で安く売るのだから当然中国から国富が流出する。元経済圏の構築を急ぐ中国だがおそらく現在は米ドルに依存していると考えると米ドルが世界中にばらまかれることになってしまう。これは中国にとっても世界経済にとっても大惨事になりかねない。さらに資源の争奪戦が起きる。中国の「稼ぐことが自己目的になった経済」を支えるために多くの資源が浪費され世界中で資源の争奪戦が起きることになるだろう。

おそらく中国政府はそうは考えていないだろうが、政府補助によって急速に市場を立ち上げそれが実需を超えて中国市場に溢れたのち「墓場」が作られるという構図を中国は繰り返している。EVでは電気自動車の墓場が作られ、建築では鬼城と呼ばれる廃墟が量産された。習近平国家主席はこれまでは自分が管理していなかったからうまくゆかなかったと考えているのかもしれないが基本的な構造はあまり変わっていない。不具合と再起動を繰り返すこの経済を資本主義は果たして資本主義と言えるのか。かなり疑問だ。

仮にこれが中国国内だけでおさまればいい。欧米市場は高い関税をかけて中国製品をブロックすれば少なくとも格安の製品が国内市場にばらまかれるという悲劇は避けられるだろう。だが、アフリカや中南米にはそのような余裕はないかもしれない。

仮に中国が元決済を進めていてサウジアラビアやロシアなどから元で石油を買いそれを元でアフリカや中南米に売ってくれるのならそれはそれでも構わないと思う。紙屑になったとしても被害が欧米に及ぶことはない。一方で米ドルを原資にした貿易を行えばそれは米ドルの価値を減じさせることになる。これが「悪性インフレ」である。

問題のもう一方はアメリカ側にある。第一にアメリカ合衆国も基軸通貨発行権を利用して財政赤字と経常赤字を支えている国である。さらにバイデン政権時代の初期には信用を過剰発行しインフレの原因の1つを作った。つまり、基本的には中国は単に第二のアメリカを目指しているといえるわけでそんなアメリカに「そんなことはやめなさい」と言われても聞く気にはなれないだろう。

さらに今回の訪米では民主党政権独特の限界も見えた。民主党政権はアメリカ型の民主主義と自由主義経済の組み合わせこそが世界の進むべき道であると考えている。キリスト教の代わりに資本主義を布教していると言って良い。イエレン財務長官の学者的な気質もあり中国にお説教している。あなたたちは資本主義がわかっていない、私のいうことを聞きなさいというわけである。

イエレン米財務長官、中国副首相と会談…対立回避へ対話の重要性訴え(読売新聞)

トランプ氏は報復関税を使って中国製品をブロックすると言っている。イエレン氏はこの選択肢を排除こそしなかったものの、全面に押し出すつもりもないようである。報復関税で国内市場をブロックすればアメリカが掲げてきた「自由で開かれた経済圏」という崇高な理想像は確かに崩されてしまうのだが、そんなことを言っている場合なのかとも感じる。

イエレン米財務長官、中国から新たな産業を守る選択肢を示唆(Bloomberg)

私たちが考える自由主義経済には「そんなことをやっては経済が滅茶苦茶になる」という一種の心理的キャップがある。だが中国はその常識を軽々と超えてくる。少なくとも東西冷戦構造が崩壊した当時にあった「世界が自由主義経済になればもっと繁栄するだろう」という見込みは挫折したと言って良いのではないか。中国を中心として我々の価値観や秩序とは相容れない経済世界が立ち上がりつつある。政府主導で何度もバブルを起こしながら再起動を繰り返すというある意味非常に「ダイナミックな」経済圏である。

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