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有事に向けてまた一歩 中国全人代から「台湾平和統一」の文字が消えた

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中国で全人代が開催されている。資本主義路線を転換し毛沢東時代を想起させる国家総動員体制への移行が始まっている。習近平国家主席は海上闘争に備えるよう指示を出しており、台湾平和統一という文字は消えた。また一歩台湾有事に近づいた印象だ。

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中国で全人代が開催されている。習近平体制はこれまでの経済路線を無秩序なものと考えており統制管理を強める意向のようだ。毛沢東時代をモデルにしているとされており。毛沢東時代を意識した発言が随所に散りばめられていた。

一方で外交は王毅政治局員の管轄となり格上げされた。

中国の国防費は7.2%の増加となった。経済成長の目標は5%なのでこれを上回るペースで軍事費を拡張させている。予算からも比重の変化は明白だ。平和統一の表現が消え「統一の理念を断固として推し進める」と改められた。また習近平国家主席は軍の代表に海上闘争への備えを指示した。2023年には軍の代表に対して総動員体制構築を指示しており習近平氏の強い姿勢は一貫している。

ポイントになるのはアメリカの対応だろう。ロシアの例を挙げるならば「ウクライナに米軍は出さない」としたバイデン大統領の発言がプーチン大統領の決意を固めたと言われている。政権交代に伴い同様の表現が見られば中国はこれをゴーサインとみなすかもしれない。

習近平国家主席は旧来の改革開放路線を間違ったものと感じているのだろう。盛んに毛沢東時代をを引き合いに出すことが増えている。特に顕著なのが治安維持である。もはや好調な経済で中国人民の満足度を高めようなどとは思っていない。企業に民兵組織を作らせたり、お互いがお互いを監視する中国版隣組制度「楓橋経験」の再評価も進んでいる。この延長としてSNSでも中国経済について悲観的な見通しを発信する人たちを監視するように呼びかけており徐々に言論統制が強まっていることがわかる。

習近平国家主席が管轄する軍に対しては国家総動員体制を意識した指示が多く飛ぶ一方で李強首相が管轄する内政の地位は大きく下がっている。李強氏は独自の発言を許されておらず会見は行われないとされている。

李強首相は全人代の演説ではかなり緊張していたようだ。習近平氏ら共産党指導部の意向と違うことを言ってはいけないと強く意識していたのであろう。李強首相は習近平国家主席の側近にすぎない。読売新聞は習近平国家主席の「強国建設」と「民族復興」を叫ぶと会場から拍手が湧きあがったと伝えている。終わったあとで習近平氏から「よくやった」と労ってもらったとのことだ。

王毅共産党政治局員は中国の核心的利益については強気の発言に終始している。だがアメリカとの直接対決は避けたいという思惑も滲む。

中国は資本主義への傾斜を失敗と捉え内政では共産主義型の統制社会への回帰を目指している。一方で毛沢東時代に成し得なかった中華圏の統一という目標を掲げこれを「核心的利益」と呼んでいる。彼らが中国と認識している地域を全て共産党政権が統一するというような目標である。その中に新疆・台湾・南シナ海なども含まれる。必ずしも清朝の支配領域というわけでもなく「共産党が考える中国圏」である。この点はロシアのプーチン大統領と非常によく似ている。彼らは「正しい歴史認識」は必ずしも「正確か」は分からないがおそらく彼らは議論をするつもりなどないだろう。

このために邪魔になってくるのがアメリカ合衆国である。例えば南シナ海でフィリピンと中国が衝突しておりこれにアメリカなどが介入している。王毅政治局員はこの動きに強い不快感を表明している。今回の会見でも日本の記者の質問は受け付けなかった。だが中国はまだアメリカを凌駕するような軍事力を持っているとは考えていない。

このような事情を踏まえるとアメリカの次期政権の出方こそが台湾有事の引き金になる可能性もある。バイデン政権はアフガニスタンから撤退しウクライナに関してもアメリカ軍が直接介入することはないと宣言した。これがプーチン大統領がウクライナ侵攻を行うきっかけになったと言われている。切替期間は特に危険だ。

バイデン大統領は民主主義という理念を守るために台湾にコミットすると宣言している。しかしながらこの民主主義という理念に対する敵意がアメリカでは高まっている。民主党政権はきれいごとばかり言っているが自国の不法移民問題に厳しく対処していないというわけだ。

共和党も伝統的には台湾を利権と考えておりこの点で現在の台湾に対する態度に民主・共和両党の違いはない。だがミッチ・マコネル院内総務が退任を宣言するなど穏健派共和党の影響力は小さくなりつつある。マコネル氏は時代が変わったと認識しているようで「共和党がトランプ氏を指示しているのは明白なようだ」と認めた。一種の敗北宣言とも言える。ここでトランプ氏が「台湾よりメキシコ国境が問題」などと発言しつつ中国に接近するなどの不規則な動きを見せると、中国がこれを台湾侵攻のゴーサインだと誤認してしまう可能性がある。

仮にバイデン氏の再選が決まったとしても、議会構成によっては今後もねじれが続く可能性がある。民主党は上院をかろうじて支配しているがアリゾナ州選出のキルステン・シネマ氏(民主党だった無所属になり現在は民主党の会派にいる)が再出馬しないと表明している。バイデン大統領が再選しても議会から予算承認を受けることができなければ、中国はこれも好機だと捉えるだろう。

日本で「アメリカ通」と言われている人たちは、たとえトランプ大統領になってもアメリカには優秀なスタッフが多くなおかつ日本政府も個人的なつながりを維持していると盛んに主張する。だがソースと根拠が明かされることはない。彼らは日米同盟から利益を受ける立場であり、必ずしもその主張にバイアスがないとは言い切れない。

中国はおそらく台湾の統一に向けて着実に歩みを進めている。アメリカの意向だけが最後の歯止めにだが、これがどの程度確実なものなのかは誰にも分からない。あるいはトランプ氏にもよくわかっていないのかもしれない。

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