CNNが「中国で今企業の武装化が進んでいる」という記事を出している。タイトルが「戦争準備か、社会不安への備えか? 中国企業が民兵増強」というタイトルになっていてちょっと穏やかではない感じがする。習近平中国はこのままアメリカとの対決に突き進み第三次世界大戦につながるのか!と言いたくなる。
中華人民共和国は共産党と国民党が争った結果作られた国だ。建前上は人民が共産党を支持したということになっているが実際には共産党が国民党を放逐し軍事的に支配した国と言ってよい。だがこの時に活躍した人民解放軍は中国の唯一の軍隊ではないそうだ。中華人民共和国は共産党が武力組織を領導することになっているのだが「人民解放軍だけを正規軍とする」という決まりはないという。
この記事を読むと習近平中国が資本主義を離脱し再び古い体制に回帰しつつあるということがわかる。実はこの民兵は毛沢東政権時代に盛んに用いられた手法なのだそうだ。問題はその古い体制への回帰が厳密に何を意味するのかがよくわかっていないという点にある。対外的な戦争を準備する国家総動員体制のようにも見えるし暴発が予想される人民に対して備えているようにも見える。だからCNNのタイトルは「戦争準備か社会不安への備えか」というものになっている。
2023年3月に習近平国家主席は「第14期全人代の第1回人民解放軍と人民武装警察の代表団の全体会議」に出席し、国家戦略と戦略能力を強化すると宣言した。習近平国家主席は共産党の最高指導者として全国の軍事組織を指導する立場にある。新華社通信と人民日報に記事がある。中国は習近平体制になってますます繁栄します。そのためには軍などの協力が必要ですというようなタイトルに見える。
この発言はAP通信にも取り上げられている。AP通信は対米関係の悪化を警戒しているようだが、習近平国家主席の発言は極めて曖昧なものでありこれがすぐに米中関係や台湾海峡情勢の悪化につながるかどうかについては分析していない。ただし国家総動員体制のようなものを準備しているのは間違いがなさそうだという指摘になっている。
中国側は祖国の発展のために国民が一致団結していかなければならないと主張している。一方でアメリカ側はその意図を掴みかねていて警戒心を強めていた。
極めて分かりにくいのは「軍隊」の位置付けだ。第一に普通の国には軍隊は正規軍が1つしかない。連邦制の国であっても連邦軍と州軍に分かれている程度である。このため「そもそも人民解放軍の他に軍隊を置かなければならない」理由がよくわからない。そもそも中国には人民解放軍がありこれとは別に人民武装警察がある。その上なぜ人民武装部のような企業民兵組織が必要なのか。よくわからない。
次に軍隊と言えば普通は外国と戦争をしたり外国の侵略から国を守るために存在すると考えるのが普通である。ところが中国の場合は(建前は別にして)全土を武力制圧しているという事情がある。このため、軍隊の銃口が必ずしも外に向いているとは限らない。そもそも武装警察があるくらいなので人民も管理対象になっている。
今回のCNNの分析は次のようになっている。正式名称は「人民武装部」である。People’s Armed Forcesの訳だが「自衛隊(Japan Self-defense Forces)のような曖昧さがある。軍隊のような軍隊でないような存在だ。
- 人民武装部は仕事を持つ民間人で構成される
- 中国軍の予備部門・補助部門として機能する
- 任務は自然災害の対応や社会秩序の維持、戦時の支援提供など多岐にわたる
つまり、内務軍として反乱を企てた国民に対する治安維持の役割を担う他、戦時には国家総動員体制のパーツになることが想定されている。「自然災害」という項目がある。自衛隊も自然災害のために活動することが多くアメリカの州兵が同じような対応をする。ただし、自衛隊や州兵と違って組織するのは各企業である。国営企業が多いそうだがそうでない企業も人民武装部を組織したところがあるそうだ。
特にCNNが注目するのが「社会不安対策」である。中国経済は景気後退期に入っている。すでに株価は3年ほど低迷しており不動産バブルも事実上崩壊したと言われている。国民が不満を感じ政府に対して向かってきた時には武力を使ってこうした反乱を抑え込むことができる。
さらに毛沢東時代も参照されている。毛沢東時代にもこうした民兵組織が多く作られた。表向きは帝国主義勢力の脅威に対応するための組織だったが実際には人民公社を使った計画経済に国民を組みこむ狙いがあったとされる。CNNはあまりこの辺りを解説していないので独自に調べてみた。
毛沢東国家主席の権力維持装置だった。
毛沢東国家主席は無理な計画経済(大躍進政策)を進めたが大失敗に終わった。多くの餓死者が出たと言われている。実権を失った毛沢東主席はそのカリスマ性を発揮し大学生たちに協力を呼びかけた。これを紅衛兵という。ところが紅衛兵たちは破壊活動を始めてしまい収拾がつかなくなる。それを収拾するために考え出されたのが文化大革命である。日経新聞が短くまとめている。
紅衛兵による権力闘争が泥沼化し制御ができなくなると紅衛兵になった大学生らを農村に事実上追放する上山下郷運動が起こる。一般に下放などと言われる。中国の農村分近代化に寄与したという評価もあるようだが、文化大革命は中国に大きな混乱をもたらしたとされることが多い。毛沢東がなくなると毛沢東の妻の江青ら4人組は逮捕・粛清されていて「毛沢東国家主席は尊敬できるリーダーだが間違いもあった」と1981年の全人代で総括されている。
習近平国家主席は毛沢東以上のリーダーになろうとしているなどと言われているのだが、毛沢東の政策を模したものも多く「現在の下放」を計画しているのではないかなどとする記事も散見される。
資本主義の部分導入から始まった中国経済は無秩序な不動産投資でバブルを生じさせた。この経済政策を主導した人たちはすでに習近平国家主席たちとの権力闘争に敗れている。今後経済の不調が明らかになるにつれ人民たちが不満を募らせることは明らかでその矛先も習近平国家主席に向かいかねない。
となると「今後どうやって体制を維持してゆくのか」が課題になるのだが、中国のポスト資本主義がどのようなものになるのかがよくわからない。そこで毛沢東時代を想起させるような企業民兵の存在に注目が集まるのだろう。
資産家たちはすでに中国から資産を海外に逃避させようとしている。一部は日本の株価や不動産価格を吊り上げていると言われる。では資産のない人たちはどうしているのか。実は「ダリエン地峡」と呼ばれる道路のないジャングル地帯に多くの中国人が殺到している。アメリカ合衆国に行けるビザが取りにくくなっているためまずは南米に抜けてそこからジャングルを通って合衆国に密入国しようとしている人が増えているのだそうだ。その数は2023年に52万人になったとパナマの移民局が発表している。
SNSがなく情報が遮断されているはずなのだが、中にはいち早く状況の変化を感じ取っている人もいる。日本のメディアでは台湾有事の脅威や中国からの爆買いに期待する報道が見られるが、実はかなり大きな変化が起きはじめていることがわかる。