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プーチン大統領が公然とアメリカ世論への浸透を図る 橋渡し役はあのタッカー・カールソン氏

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ある男のXの投稿が物議を醸している。FOXニュースの名物司会者として知られた「あの」タッカー・カールソン氏がクレムリンに行きプーチン大統領との単独インタビューに成功した。

カールソン氏は自費で渡航したと主張している。プーチン大統領が西側のメディアの取材に応じることは珍しく何らかの意図があるものとみられる。ワシントン・ポストは「カールソン氏を橋渡しにしてトランプ支持者に働きかける意図があるのだろう」と分析している。つまりカールソン氏がプートン大統領のプロパガンダに協力しているというのである。

見えすいたプロパガンダが「民主主義の総本山」であるアメリカで成功するはずはないと思いがちなのだが、おそらくカールソン氏の主張に共鳴する人は少なくないだろう。トランプ氏が大統領になるとウクライナに対するアメリカの関与は今とは全く違ったものになってしまうかもしれない。

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「あの」タッカー・カールソン氏がXに「プーチン大統領とのインタビューに成功した」と投稿した。

日本ではあまり馴染みのない名前だが、アメリカで知らない人はいないという名前だ。FOXニュースでトランプ氏を擁護しつづけFOXニュースの視聴率向上に貢献している。

しかし、最終的にFOXニュースはその言動を持て余すようになった。訴訟騒ぎが起きスポンサーも引き上げかねない状況になったことでカールソン氏はFOXニュースを去ることになった。事実上の解雇と言われている。カールソン氏の影響力は今でも衰えておらずXには1167.4万人のフォロワーがいる。

だがおそらくカールソン氏はかつてのような政治報道のセンターステージに戻りたいと考えていたのだろう。自身のストリーミング・サービスを開設しており、プーチン大統領の単独インタビューの成功はそのための大きな宣伝材料となる。

日本語では時事通信が記事を出している。「米元看板司会者、プーチン氏にインタビュー 一方的見解に懸念も」と言う落ち着いたトーンになっている。日本では名前があまり知られていないこともありあまりインパクトは感じられない。

だが欧米メディアの扱いは全く違っている。内容はどれも敵対的だ。まず、間違いなくプーチン大統領側のプロパガンダだと見做されている。CNNは「The right-wing extremist(極右主義者)」と呼びつけており、プーチン大統領の言いなりである(bidding of)と指摘している。

Tucker Carlson is in Russia to interview Putin. He’s already doing the bidding of the Kremlin

カールソン氏VSメディアの構図になるのには理由がある。カールソン氏は常々西側のメディアは腐敗していてプロパガンダを広めていると主張している。つまり強烈なマスゴミ批判を展開しているのである。CNNはカールソン氏を個人攻撃しているが、BBCReutersPoliticoなどの論調はどれも似たようなものだ。

カールソン氏はこれらのメディアをPaywall(料金の壁)と呼んでいる。そして自分は完全に無料で公開すると約束している。つまりメディアは金儲け主義に毒されており自分はそれと闘おうとしていると位置付けている。当然サーバー代はタダではないだろうから誰かがスポンサーになっていると考えるのが自然なのだが自分は誰からのお金も受け取っていないと主張する。

一方で12月には年間72ドルで自分のストリーミングサービスを開設すると発表していた。中には“Tucker Carlson Uncensored”と言う番組もあるそうだ。マスゴミは検閲まみれだが「浄財」によって賄われる自分のメディアは正直で信頼ができるということなのかもしれない。

事情を知らない人は何となくめちゃくちゃだと感じるかもしれない。だが、問題はおそらくこのカールソン氏の主張に共鳴する人が非常に多いだろうという点にある。実際にマスコミや政治家が金持ちに操られていると考えるアメリカ人は増えている。

アメリカの大統領選挙では富裕層に支援されるデサンティス氏やヘイリー氏が苦戦している。デサンティス氏は既に撤退し、ネバダ州ではヘイリー氏が「該当者なし」に敗れたことが話題になった。特に共和党支持者は「今の共和党は金持ちによって腐敗している」と考えるようになっている。トランプ氏が個人献金を集めて躍進している背景には既存政治家への不信感の高まりがある。

バイデン大統領も個人献金に依存している。このため両氏の主張はどんどん大衆迎合的になってゆく。民主主義によって二転三転しイスラエルを持て余すバイデン大統領の主張は今やアメリカの国際的地位を脅かすまでになった。ウクライナ支援も議会の賛同が得られず風前の灯という状態が続いている。

タッカー・カールソン氏の動きはおそらく自分のメディアの宣伝にあるのだろうが「今のマスコミは企業によって腐敗させられている」とか「今の共和党は一部の金持ちによって腐敗した人たちに操られている」という主張が受け入れられる余地は大きいのかもしれない。つまり庶民が政治に関心を持てば持つほど政治が不安定化するという側面がある。

これがプーチン大統領にとっては付け入る隙になっている。もはやプーチン大統領は裏から手を回して選挙に介入する必要はない。宣伝材料を必要としている自称「ジャーナリスト」に働きかければいい。

ワシントンポストは冷静に「Putin interview with Tucker Carlson shows Kremlin outreach to Trump’s GOP」と分析する。トランプの共和党(つまりMAGA共和党)をプーチン大統領が狙っているというのである。

仮にこのインタビューが広く知られるようになれば、MAGAの人たちは「自分たちはマスコミに騙されて本来は関わる必要がないウクライナの戦争に巻き込まれている」と考えるようになるだろう。そのためには「無料放送」は極めて魅力的な選択肢だ。さらにマスコミがカールソン氏を攻撃すればするほど「彼は迫害されている」と考える人が増える可能性もある。訴訟まみれのトランプ氏がいまだに有力な大統領候補と見做されるのと同じ理屈である。

上院ではバイデン大統領と超党派の間にウクライナ、イスラエル、国境対策などを盛り込んだ総合パッケージの合意が終わっている。だがトランプ氏がこれに圧力をかけるように議会に求めたため下院では法案への支持が急落していた。連邦の代表者が選ばれる上院よりも人口比によって代表が選ばれる下院の方がポピュリズムに毒されやすい。

下院の一部はイスラエルを単独で支持する法案を準備したが、今度は「バイデン大統領に更なる支出削減を迫っていない」と不服に感じた人たちが造反しこの法案をブロックしたそうだ。政治家たちもまた政治に興味を持つようになった庶民たちの気持ちを引き付けるのに必死になっており「党議拘束」なき泥沼が日夜展開されている。

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