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国民は将来不安から食べ物を控え、経団連は防衛費の追加支出を要望

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日本は長い長い低成長時代を抜けコストプッシュ型のインフレ期に移行した。だが、岸田政権が状況を説明しないため「今日本はインフレなのかデフレなのか」という不毛な議論が続いている。インフレは輸入品の価格を押し上げるばかりでなく「ブラケット・クリープ」という事実上の増税につながるため国民の実感はより悲観的なものとなる可能性がある。正しい認識の元に整理された政策が求められる。

今の混乱した議論のもとでは、実質賃金は上がらず家計は消費を控え続けるだろう。エネルギー支出は抑えられないため食べ物を堪える人が多いという切ない記事もある。

そんななか、消費税増税を政府に訴えかけてきた経団連は政府に対して「円安に対処するため防衛装備品の購入に対して追加の補正予算を組むべきだ」と要望しているようだとロイターが伝えている。国民はがまんしている。だが経団連はがまんしたくない。

特にどの政党の誰がという希望はないが、インフレをチャンスに変え国民のやる気を喚起する政権の登場が期待される。出口は迎えるものではなく自分達で作り出すべきだと思う。

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9月の経済統計が出た。家計の支出は7ヶ月連続で低下し続けている。円安によるインフレが加速しており、家計は消費を控えるようになっている。

7月の統計が出た時ロイターは物価高が響いたと書いている。主に減少したのは食料品と住居支出だ。一方でエネルギー支出は選択肢が少ないため支出増を回避できない。同じ傾向は今も続いているものと思われる。独身者はそれなりに消費しているようだが「世帯」は将来不安に敏感に対応しているようだという記事もある。スーパーにモノがないわけではないが、価格がある一定以上になった食品はもう買わないという消費傾向が定着しつつある。実に切ない。

実質賃金は18ヶ月連続マイナスとなっている。マイナス幅そのものは縮小しており若干の改善は見られるもののインフレに追いついていない。NHKは10月以降の最低賃金引き上げの影響がどう出るかに注目をしたいと書き添えている。

家計は明らかに「苦しい状況がこれからも続くであろう」と予想し、支出を減らしているのだろう。悲観ムードが払拭できなければ、インフレでありながらも不景気に陥るというスタグフレーションが自己実現してしまう。こうした気分を払拭するために総理大臣が説得力のある明るい見通しを国民に提示しそれを説明する必要がある。岸田総理はそれに失敗した。今後状況が改善されることを望みたいが岸田総理には無理かもしれないとも思う。

日本が本当に直面しているのは悲観ムードなのだろうが、これを複雑にする要素がいくつかある。悲観的な見込みを持っているのは国民だけではない。財務省は「取れる時に取れるだけとっておきたい」と考えている。だから税率のテーブルには手を触れたくない。これがブラケット・クリープと呼ばれる事実上の増税をもたらす。賃金が上がっても手取りが減る。これでは国民のモチベーションが上がるはずはない。ガチョウを殺すところまでは行っていないが首を絞めていることだけは確かだ。

例えば防衛関係予算にもそれが現れている。日本の防衛予算にはアメリカの軍需産業を支えるという意味合いがある。つまり大統領の選挙キャンペーンに利用されている。アメリカの産業を支えるために防衛費を使うことについては賛否あるだろうが今回はそれについては評価しない。中国の海洋進出などからある程度防衛費が嵩むのは仕方がないのかもしれない。

だが、この手の予算は自然に膨らむことが多い。アメリカでも度々問題になっている。巨大原子力空母は予算が膨らみ続けトランプ大統領ですら呆れ果てるほどだったとされている。建造予算が膨らんだ上に技術的な問題が見つかり調整に長い年月がかかった。今は大統領専用機の予算が膨らみ続け問題になっている。大統領専用機の場合売渡価格は決まっているためボーイング社の赤字になるそうだ。トランプ大統領が「固定」価格にこだわったためだと説明されている。つまり日本がトランプ大統領ほどの交渉力を持たない限り「言い値」が膨らむ可能性がある。

もともとそういうものなのだ。

加えて円安になると日本が購買できる防衛装備品の規模が小さくなる。アメリカ合衆国は約束したものをきちんと買うように日本への働きかけを強めるだろう。このまま政治的配慮からアメリカの防衛装備品を優先すると国産の防衛装備品がリストから外されることになる。これを危惧した経団連は補正予算をつけて計画を維持するようにと働きかけている。防衛省は辻褄をあわせるために現在1ドル108円で調達を計算しているという。つまり「お買い物リスト」はさらに縮小するのは確実だ。

ロイターは次のように書いている。

発注量が減りつつあることを危惧し、防衛関連企業が加盟する経団連など複数の業界団体は10月25日付で木原稔防衛相に要望書を提出した。書面を受け取った防衛省によると、当初計画通り調達や研究開発を進めること、円安でコスト負担が増している現状に対し補正予算で支援することを求めているという。経団連はロイターの取材にコメントを控えた。

こんなことを繰り返していては経団連や財務省「国民の敵」扱いされてしまうのではないかという気がするのだが実際にはそうならない。代理処罰されるのはその時の総理大臣である。

ネットでは「岸田総理が消費税を19%に上げろと言っている」などと書かれることがある。実はこれは誤解である。確かに経団連は少子化対策の財源には所得税を使うべきだと政府に要望し続けている。恐らく法人税を使われたくないのだろう。

経団連は消費税を19%にしろと要求したことがある。だが実はこれは野田政権から安倍政権初期にかけての発言だったそうだ。2012年に共産党が経団連を批判している記事が見つかった。消費税は税率が国民に見えやすい税なのでいったん数字が出るとそれがいつまでも一人歩きするのであろう。この主張は安倍政権の初期までは維持されていたようである。FLASHがそのように書いている。

正確に言えば国民生活を犠牲にしてでも自分達の権益や立場を守れと主張するのは例えば財務省であったり経団連だったりするのだが「総理大臣は偉い人」ということになっているため、最終的に全て総理大臣のせいだということにされてしまう。

結果的に総理大臣が「ポジティブな結果のためのは国民の協力が必要だ」と説明しても誰もそれを聞かなくなる。

バブル崩壊以降停滞の時間が長かったために今更明るい見通しを語られても俄(にわか)には信じ難いという気持ちもあるだろう。実際に景気実感は悪い。だから今はインフレだと言ってもそれを頑なに認めたくないという人は多いはずだ。

また経済が成長するということは国民一人ひとりがそれなりに成長に参加しなければならない。恐らく岸田政権は国民のマインドセットを変えるのに失敗した。問題は岸田総理に代わって明るい見通しを語ることができる政治家が現れるか、あるいはこのまま不機嫌にリーダーを叩き続けるかということになる。今のように政策を都合のよい統計で正当化するようなマインドセットから抜け出せない限り混乱は続くだろう。

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