福岡で講演するたびにマスコミにネタを提供していくれる麻生太郎自民党副総裁が今度は「これ以上何すればいいのだ」と聴衆に訴えたそうだ。タイトルを見て「余計なことはしてくれるな」ということなんじゃないのと思った。
ただYahoo!ニュースのコメント欄を見ると鬱積した不満が爆発している様子がわかる。無党派層の気持ちが掴めず支持率が低迷する中で却って国民の不満が掘り起こされているようだ。だが有権者が積極的に政治に関与することはない。麻生太郎氏に対する答えは「余計なことは何もしてくれるな」ではなく「そんな面倒なことは自分たちで勝手に考えてくれ」なのかもしれない。
産経新聞が「麻生氏、首相の実績擁護 「これ以上何すれば」」という記事を出している。岸田総理の支持率が低迷している。だが岸田総理は敵基地攻撃能力の導入など安倍総理でもできなかった政策を実現した。これ以上何をすれば国民は満足するのか。そういう趣旨のようだ。
麻生氏は地元福岡で岸田総理の後見人としての地位を喧伝したいのだろう。だが岸田総理は次第に距離を置き始めている。これまで岸田・麻生・茂木会談が定例化していたが「これでは支持率改善が望めない」と考えたのだろう。6者会談に変更された。岸田総理には「麻生さんを聞きすぎた」という気持ちがあるのかもしれない。
写真を見るとNew Ohtaniと書かれている。大家さとし参議院議員のウェブサイトには「麻生氏配下」の議員たちが勢揃いしている様子が掲載されており福岡での麻生氏の権勢を示すような会合だったようだ。麻生さんはさぞかし気分がよかったことだろう。驚いたことに福岡県知事までその中の一人として並んでいる。こうしたところに集まる「上級国民」の関心はガソリン価格の高騰や物価高対策ではなく敵基地攻撃や台湾支援のような大きくて強い日本を維持することなのかもしれない。確かにそれはそれで重要なテーマだ。
この見出しだけをみて「増税のような余計なことは何もしてくれるな」という反発が広がっているのではないかと感じた。だがそれは単に個人の感想にすぎない。Yahoo!ニュースには4500件ほどのコメントがついていた。コメントランキングでは堂々の国内1位であり1時間に300件以上のコメントが寄せられているそうだ。麻生太郎というキャラができており良きにつけ悪しきにつけ注目されやすいのだろう。
コメントの中身を読んでみたが「余計なことはするな」という意見は意外と少ない。ただありとあらゆる「あれが足りない、これをやっていない」という声が渦巻いている。内容は雑多だがこれまで鬱積してきた多くの反発が無党派層への働きかけの結果掘り起こされていることがわかる。
もう一つ気がついたことがある。安倍政権時代に見られたパターン化された「政権擁護」のコメントが消えている。偶然かもしれないが、立憲民主党の議員2名の訴えにより地裁で220万円の賠償判決が出たばかりなのだ。自民党が関わっていたかどうかは別にして政権を擁護する人たちが動きにくくなっているのは確かなようだ。下手に「仕事」を請け負うと面倒な裁判を抱えかねない。
もともとの岸田政権に対する低支持が何によって引き起こされたのかはわからない。だが、低支持によって政権中枢が動揺しているのは確かなようである。そこで盛んに無党派層を引き込もうとしているのだが、これが却って有権者の反発を呼ぶ。「これまで何もしてくれなかったのに困った時だけ近づいてくるというわけか」ということだ。加えて「上級市民」たちの感覚もそのままSNSに乗って流れてくる。どこか庶民の感覚とはずれている。
うっすらとした反発は強まっているのだがそれが野党支持にもつながらないというのが今回の特徴だ。10月22日には衆参補選が行われる。与野党が伯仲とか岸田政権の浮沈がかかるなどと言われていたが、期日前投票はあまり盛り上がらなかったようである。
これらの状況を踏まえると、麻生太郎氏の「これ以上何をすればいいのだ」の答えは「何もしてくれるな」ではなく「そんな面倒なことはそっちで考えてくれ」ということになる。独特の政治への冷めた視線が感じられる。政治的無力というよりは冷笑と言ったほうが適当だ。
ただ、Yahoo!ニュースのコメント欄は「課題の宝庫」にもなっている。課題には全て重みがついており国民の関心がわかりやすい。匿名の支持が多ければ多いほど高評価がつき、岸田政権擁護のコメントには低評価がついている。つまりこれをAIテキストマイニングして分析すれば、無料で国民が抱えている課題をリサーチすることができるだろう。与党でも野党でもどちらでもいいのだがマーケティングするつもりになれば無料で素材が手に入る。つくづく便利な時代になったものである。
聞くつもりになれば材料はいくらでもあるのだ。
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