今週の土曜日から国体が始まる。それに先立って水泳系の競技が開催された。水球を見に行ったのだが、簡単に水の上に浮いているように見える。立ち泳ぎをしているからだ。足の届かないプールで泳ぐのに便利だなあと思い、練習してみることにした。なんせ、ものすごく簡単そうに見えるである。
まずインターネットを見て情報を集める。ネットには断片的な情報しかない。平泳ぎの足を交互にするといいだとか、椅子に座って練習するとかだ。実際やったけど、習得に時間がかかったという記述もある。また、簡単にできるようになったという人もいる。どうやらこの技術は「巻き足」というらしい。
実際にプールにゆき、足をつけずに浮いてみる。人間の体はほぼ水に浮かぶことになっている。肺に空気を貯めると比重が水より軽いからだ。とりあえず、足が動かせないんだなということは分かった。手をぐるぐると動かしてしまう。いろいろ考えた結果、平泳ぎを実践してみることにした。まずビート板を持ち、平泳ぎの足をやる。それを交互に出してみる。しかし平泳ぎはカエルのような動きだ。つまり、体を伸ばすときの推進力を使って前に進むのだ。これが巻き足とどういう関係があるのか、さっぱり分からない。
ここまでをおさらいする。
- まず、お手本を見る事で「こういうことができるのだ」という目標ができる。
- 次にやってみようと思う。「あれができたら、泳ぐのがラクになるに違いない」「足が付かないところでも大丈夫になるだろう」と考えるからだ。この段階をモチベーションがわくと言ったりする。
- 実際情報を集めるのだが、各々の情報がバラバラで、どう目標に到達するのかが分からない。それでも実際にやってみるものの、この努力を続けてもムダになったりしないかと考える。
ここまでが2時間である。(後になってわかるのだが、立ち泳ぎの習得にはかなりの時間がかかるらしい…)
プールには無料の講習会があり、後日そこで10分ほどレクチャーしてもらった。コーチの登場である。30代くらいに見えるコーチはまず次の質問をした。
- どうして、立ち泳ぎがしたいと思ったのか。
- これまでにどういう練習をしたのか。
これを聞いたあと、実際に見せてくれる。やはりとても簡単そうに見える。そして、彼はこの習得に1か月かかったのだそうだ。この時点で2つの情報が加わった。
- 実際のイメージ
- 習得にどれくらいの時間がかかるか
さらに、コーチはプログラムを組んでくれる。なかなかやり手である。もう一つのポイントは、このコーチが実際に習得に苦労したという点だろう。自然にできていればこういうプログラムは組めなかったかもしれない。
- まず、足を練習する。足をお尻近くにあげる。それを振り下ろす。そしてかかとをつける。これを交互に繰り返す。これをやるために日頃から「お姉さん座り」をすると良いだろう。足に柔軟性があることが重要だからだ。(とはいえ、この柔軟運動はかなり苦痛であることが判明する)
- これができたら、足を使って、後ろ向きに進む。手を使わず、浮かない場合にはビート板を使うといいだろう。
この時点で、バラバラだった情報に体系ができる。しかし、体系ができたからといって実際にできるようになるとは限らない。実際に習得する期間が必要だからだ。
さらに1時間練習した。
1日経って、平泳ぎの動き(これは直線的な動きである)と巻き足の回転する動きの関係が分からなくなる。ということでいろいろネットで漁ってみるのだが、よく分からない。ここで役に立ったのがビデオ素材である。動きの中に「お姉さん座り」があるのが分かる。(とはいえ、片方づつなのだが)そして、回転に実は方向があることが分かった。右足が反時計回りで、左足が時計回りなのであった。(実はコーチングの時点ではこのことは出てこなかった)
インターネットが役に立つのは、このレベルからだ。情報が体系化されないと使い物にならないのである。そして役に立った情報はほとんど英語のものだった。これは後々課題にしようと思うのだが、日本人は不特定多数に向けて何かを説明するのがとても苦手か、意欲がないようである。
さて、最後になるが、ここまで見て来たのは、今回は新しい技能の習得について考えて行こうと思うからだ。前回のミニシリーズでは、陳腐化した技術をマーケティングで再活性化させようという試みだった。今回はイノベーション方向について考えてみたい。
見て分かるように、この立ち泳ぎの習得は、先行モデルのある技能習得である。イノベーションでは最終的にこれを先行モデルのない技術習得に拡張しなければならない。「学習する組織」はクラッシックな理論なのだが、これを実体験に照らしてもう一度再編成してみよう。