微笑みの国タイで大きな変化が起きている。タイに帰国したタクシン氏の恩赦が決まった。8年の刑期が1年に減刑された。東南アジアの政情が安定していたタイで起きている変化について整理した。既得権維持のためにタクシン派のタイ貢献党と軍部が「微笑みの手打ち」をし11政党からなる連立政権を樹立しようとしている。だが、おそらく水面化では足の蹴り合いが行われている。国王の不人気も重なりタイは再び不安定な情勢に陥る危険性も残っている。
タイは東南アジアでは珍しくヨーロッパの植民地にならなかった。国内には激しい権力闘争があるが王権が調停してきたという歴史がある。最終的にはラーマ9世(日本ではプミポン国王として知られる)が調停すると事態がおさまってしまうのである。ラーマ9世は国民的な人気が高く2016年まで在位した。
王室の神格化の理由は軍部の思惑であろうと言われている。軍部が度々クーデターを起こすことでも知られているが軍に対する反発はそれほど大きくならない。国王権威がそれを調停するという図式を作ればなんとなく丸く収まってしまうからである。
ただ神格化された国王はついに2016年に亡くなってしまった。
2016年に王位を継いだラーマ10世は多くの愛人を抱えて派手な生活を送っていることで知られており、国民的な人気は必ずしも高くない。そのため都市部を中心に王政改革を行うべきだという政党が出てきて躍進した。この政党は軍政の改革も求めている。
ラーマ10世(ワチラロンコン)の不人気には理由がある。3度離婚し4度目の結婚をしているのだが、コロナ禍になると国を離れ愛人を連れてドイツで贅沢な暮らしを送っていた。しかしタイには不敬罪があるので派手な王室批判は避けられている。この記事は2020年に書かれているが「軍事政権は王室を神格化することで政権を正当化しており」タクシン派(タイ貢献党)はそれを崩そうとしてスキャンダルを広めているのではないかと書かれている。
タイでは2014年に軍事クーデータがあり軍が上院をコントロールするようになった。このため下院で過半数をとった政権も軍の協力を得なければ政権を取ることができない。だから、改革派政党は政権を取れないだろうと言われていた。加えて憲法裁判所も改革派政党前進党のリーダーの議員資格を剥奪し何としてでも既得権を守ろうと画策する。
議員資格を剥奪されたピター氏に対する判決では次のように書かれている。既得権を維持したい人がピター氏の政策を潰そうとしていたことがわかる。
憲法裁判所はまた、前進党による不敬罪改正計画は「国王を元首とする民主的体制を転覆させる試み」として出されていた訴状も受理した。
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今回の恩赦についても次のように警告されている。つまり恩赦に反対する人は不敬罪を適用しますよという恫喝だ。
タクシン氏の弁護士はロイターに「国王陛下の寛大さがタクシン氏への慈悲を示した。国民はこの結果を批判せず受け入れるべきだ。(批判すれば)王室の権限を侵害したとみなされる可能性がある」と述べた。
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ではなぜタクシン氏は恩赦されたのか。今回、タクシン氏の流れを汲む政党は選挙では第二勢力だったが首相を出している。国王はこの政党が引き続き「王室に対して忠誠心を示す」ことを期待している。
タイ政府は1日、海外逃亡先から帰国後、公権力乱用罪などで有罪判決を受けたタクシン元首相(74)が、ワチラロンコン国王の恩赦で禁錮8年から1年に減刑されたと公表した。「王室への忠誠心」などが理由。
タクシン氏の流れを汲むタイ貢献党はもともと軍政によって政権を剥奪されたという歴史を持っている。このため本来は敵同士ということになる。
軍事政権はさらに強い改革欲求を生み出し前進党の躍進の原動力になった。
このため「争っていては政権が維持できない」ということになったのだろう。新しい改革勢力の出現により「昨日の敵は今日の友」とばかりに仲良く握手をして見せた。今後は呉越同舟の11政党で連立政権を組むことになる。首相になるセター氏は不動産王で政治的経験はないという。
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タクシン派は軍政の正当化の理由になっていた国王権威を貶めることで自分達を政権から放逐した軍に復讐しようとしていた。しかしこれが返って王室改革を求める前進党の躍進につながってしまっために国王に対して忠誠を誓ったということになる。
つまり今回の笑顔の握手の裏には「深い恨み」と「打算」がある。微笑みの国タイの微笑みにもなかなか侮れないものがあると感じる。今後タイが赤シャツ・黄シャツに分かれて争っていた時代に戻るのかあるいはなんらかの安定を取り戻すのかに注目が集まる。
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