「バイデン米大統領、中国を「時限爆弾」と表現 経済問題巡り」という記事をロイターが出している。中国経済は構造的な問題を抱えているため必ず経済が大きなダメージを受けるという認識を「時限爆弾」と表現しその結果として「悪いことをするだろう」と言っている。悪いことの中身は不明だ。日本の麻生太郎副総裁も台湾で「中国と対峙するためには戦う覚悟が必要だ」との認識を示している。これらの発言を見ると、米中と日中関係は緊張に向かうのではないか?と思える。発言について細かく見てゆこう。
バイデン大統領は中国を時限爆弾と表現した。そしてわかりやすい言葉で「彼らは問題を抱えている。悪い人々が問題を抱えると悪いことをするため、これは良くない」と説明している。総合すると中国経済はこの先必ず破裂しその結果として「何か悪いことをするだろう」と言っている。その悪いことが軍事侵攻なのかあるいは別のことなのかの認識は示されていない。
麻生太郎副総裁も台湾での講演で、平時から非常時に変わりつつあるという認識を示したあと「軍事力を増強するだけではダメで戦う覚悟を持たなければならない」との認識を示している。台湾有事を意識した分析だ。
まず、麻生太郎氏の問題から「片付けて」しまおう。このところアメリカの新聞が立て続けに日本関係のリーク記事を出している。「アメリカは台湾有事に際して具体的なコミットメントを求めているが日本は曖昧な態度を取り続けている」との報道がウォールストリートジャーナルから出ている。つまり麻生氏の戦う覚悟発言は少なくとも岸田政権の現在の姿勢とは相容れない。麻生副総裁の側近は「政府と調整した結果だ」と言っているのだが、その調整の内容は不明である。
さらにワシントンポストも中国軍からのハッカーが防衛省のサーバーにハッキングを仕掛けてるというリーク記事を出したが、日本政府は「何も盗まれていない」の一点張りで何ら説明は行わなかった。どうやら日本のサイバー防衛はかなり後進的な状況にあるようだ。お金を出すだけではダメで具体的な対策をする「危機感と覚悟」が求められるが、岸田政権にはそのどちらもなさそうである。
政府の対応を見る限り「戦う覚悟」はあまりなさそうだし、仮に覚悟があったとしても実行力が伴わないということがわかる。
ただしこの発言は政権から離れつつあるかつての安倍総理支持者には響いたのではないかと思う。煮え切らない発言の岸田総理よりも言い切りを好む安倍総理の方がわかりやすいと考える人は多いだろう。
バイデン大統領はこのところ「習近平国家主席は独裁者だ」と主張していた。実はよく読むとどちらも政治資金集め集会での発言だ。つまり「自分は力強い大統領である」という姿勢を示すことで資金が集まると考えている可能性が高い。
トランプ前大統領の裁判が進行中であり「トランプ氏がアメリカの民主主義を破壊するのではないか」と懸念する人が多い。自分は民主主義のために戦うのだという極めて単純なメッセージを全面に押し出すことで資金集めを有利に進めようとしている可能性が極めて高い。
このためロイターは短い文章の中に「ただ、中国の経済成長率について誤った数値を述べた」と書いている。つまりあまり現実の経済成長率などには興味がなく、単に中国を悪者にしたいだけなのだろうという含みがあるものと思われる。
では中国脅威論などありもしない妄想なのか?ということになる。どうもこれがそうとも言い切れない。
まず中国の景気は減速している。これは確かなことである。構造的な問題もある。融資平台に代表される地方政府の債務はGDPの7割を超えており何らかの処理が求められる。さらにスパイ防止の法律の影響もあり対中投資が落ち込んでいるそうだ。習近平体制になり政治的な不透明感が漂うのだから安心して投資しようという企業は減っている。加えてバイデン大統領による対中国規制も中国経済を減速させる。
事情を知る関係者によると、バイデン米政権は今後数週間内に新たな対中投資規制を導入する可能性が高い。日本、米国、欧州はすでに中国企業向けの先端半導体製造装置の輸出を制限し、中国が報復として希少鉱物の輸出を制限している。
焦点:中国への直接投資が急減、「支柱」失う人民元(ロイター)
中国経済が減速しているのは確かである。さらに減速の原因は中国の構造的な問題とアメリカの関与が入り混じっている。だから「中国の複合不況」と呼ばれるのである。中国の複合不況は日銀の金融政策修正にも影響を与え、中国人の「爆買い」がなくなることで日本の観光地にも影響を与える。
さらに中国の統治機構も動揺している。
習近平国家主席は対米戦略を立て直そうとしている。2015年には軍からロケット軍を独立させ自分の配下に置いた。さらに3期目に当たって自分に近い秦剛氏を外務大臣に据えていた。おそらく外交と軍事に対しては自分が直接管理監督するという体制を作ろうとしたのだろう。
しかし既に秦剛外務大臣は「行方不明」になっており王毅政治局員が外務大臣を兼任することになった。さらにロケット軍でも今回粛清があった模様だ。一週間ほど前からニュースになっていた。
- 習氏肝いりの「ロケット軍」で何が 司令官ら同時に交代、衝撃広がる(朝日)
- 中国ロケット軍司令官が交代 幹部汚職で「異例人事」か(産経)
- 中国「ロケット軍」、トップ2人が同時交代の異例人事…汚職や機密漏えいが原因か(読売)
- 中国、ロケット軍トップ2を同時交代 異例の人事(日経)
秦剛氏とロケット軍の話ではさまざまな噂が飛び交っている。明確な説明ができないところから、対米接点で中国の統治機構が揺れているのは確かなようである。
バイデン大統領や麻生副総裁の対中脅威論は自分達に支持を集めるためには外に悪者を作るのが良いだろうという目論見なのだろうが、実際に中国の統治機構を動揺させている。あるいは本当に追い詰められた結果として中国が「何か悪いこと」をしでかす可能性は低くないのだ。
仮に日本政府が戦略的に情報を発信し裏では着々と準備を進めているというのであれば、それもまた国策なのであろうとは思うのだがどうもそうでもなさそうだ。いざという時に困らないように備えを進める必要があるのだが、どの政党にその仕事を託していいのかがよくわからない。