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中国の外交に変化 王毅氏の外務大臣復帰が意味するもの

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ある日突然秦剛外務大臣が姿を消した。習近平国家主席に引き上げられた人物だった。結局秦剛氏が外務大臣に復帰することはなく共産党の政治局員に出世していた王毅氏が外務大臣を兼務することになった。

これが何を意味するのかについてはさまざまな憶測が飛び交っている。アメリカに対する中国の姿勢が切り替わったということはいえそうだが、その影響がどのようなところに出るのかはまだわからない。王毅氏は忙しく世界中を飛び回り新興国の支持集めに奔走している。日本がこれにどう対峙すべきか、岸田政権はビジョンを示す必要がある。

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日本で政府の要人が突然消えたとなればおそらく大騒ぎになるだろう。だが中国ではそれほど騒ぎになっていない。ネットにはさまざまな噂が飛び交っていたそうだが野放しになっていた。政府が泳がせていたのではないかと言われている。女性問題があったのでは?などという噂が含まれているため興味本位で覗き込んでいた人々はやがて納得しそれぞれの答えを見つけるだろうというわけだ。

結局説明がないまま王毅氏が外務大臣に復帰した。中国は共産党が政府を指導する体制になっている。何の肩書きもないまま国際会議などに出席するのはよろしくないという判断が働いたのではないかなどと言われているそうだ。結局秦剛外務大臣がなぜ解任されたのかの説明はなかった。民主主義ではない中国では政府が説明を拒否できるのだなと改めて「感心」した。

共同通信は「習近平国家主席には痛手になった」と書いている。政府を親習近平派で固めようとしていたのにそれが破綻したという見立てである。

かなりの異常事態だが日本政府は日本に対する影響力は限定的だろうと言っている。日本は米中デカップリングに付随して動く。つまり主体的な外交は既に行われていない。全てはアメリカ次第ということになるのだろう。

ただ中国がアメリカに接近していることだけは確かだ。バイデン政権とは距離を置いている。ブリンケン国務長官は習近平国家主席に直々に叱責されていた。代わりに100歳のキッシンジャー元国務長官が中国を訪問し習近平国家主席と親しく会談している。バイデン政権外しが行われると同時に「アメリカにも中国との交流が復活することを望んでいる人がいる」というサインなのだろう。受動的な戦狼路線から積極的に仕掛ける方向に変わりつつあるようだ。

この体制であれば相手を理解する必要はない。BBCによれば中国外交筋からアメリカのことを知っている人がいなくなっているそうだ。秦剛外相はアメリカの文化はよく知っているが戦狼的なものいいもできるという稀有な存在だったという。BBCはこの知米派としての側面が嫌われたのではないかと疑っているようだ。産経新聞も同じような見立てだ。

王毅氏はBRICSの安全保障会合に出席しアメリカ合衆国を念頭に「覇権を食い止める」と強調した。王毅氏はアメリカでの経験がない。つまりアメリカを意識して対抗するという従来の方針が覆り自分達は独自で仲間を集めるという方向に舵を切った可能性が高い。

王毅氏はトルコでエルドアン大統領とも会談している。NATO加盟国だがやはり「非欧米新興国」連合の一員だ。

王氏、トルコ訪問 外相復帰後の初外遊 ウクライナ情勢巡り協議(ロイター)

アメリカがアジェンダを設定しそれにレスポンスするという従来の体制であれば「共産党のお使い」である外務大臣でも務まったのかもしれない。だが主導的に枠組みを作る「与党化」を試みるとなると話は別だ。政治局員レベルでないと務まらないだろう。

日本から見ていると中国やロシアが孤立すると思えるのだが、実はBRICSに加盟を希望している国は増えている。現在取り沙汰されているのはサウジアラビア、イラン、キューバなどである。NHKは加盟を希望している国は20カ国程度あるようだと言っている。

現在のBRICS参加国はブラジル、ロシア、インド。中国、南アフリカだが、サウジアラビアやイランなど数十カ国の高官が参加している。パートナーは「BRICSの友人」と呼ばれサウジやイランのほか、アラブ首長国連邦(UAE)、キューバ、コンゴ民主共和国、コモロ、ガボン、カザフスタンが含まれている。中国の援助に期待している国やアメリカの圧力を牽制したい国も含まれているのだろう。

仮に中国で何らかの路線変更があったとすると「日本に対する影響は限定的」という日本政府の説明はあまりにも呑気という気がする。中国は外交においてより積極的で能動的な役割を担おうとしている。日本は対米追従路線なのでおそらくこれには太刀打ちできないだろう。全てはアメリカ次第ということになるがバイデン政権はかなり弱体化しており少なくとも2年間は身動きが取れそうにない。

たれまで東西冷戦の枠組みで世界を理解してきたメディアもこの動きに全くついてゆけていないようだ。構造が読めず変化についてゆけない人は変化を拒み現状維持を声高に叫ぶ。読売新聞の社説を読むと典型的な日本の反応がわかる。

読売新聞は社説で中露に接近する国を戒め警告を発信している。だがどの国が読売新聞の社説を読んで「ああそうだその通りだ」と改心するだろうか。日本はいち早く先進国の仲間入りをすることで経済的成功を享受してきた。この基本的な環境が損なわれているわけで何らかの対応が求められるのだが、おそらく読売新聞にそのようなビジョンはない。だから現状維持を声高に訴え続けるしかないのであろう。

「BRICS拡大 途上国は中露に躍らされるな」(読売新聞社説)

少なくとも政府の「情報を集め状況を注視する」という姿勢からは戦略的意図は全く感じられない。政府の役割は新聞のスクラップ係ではない。戦略を策定し国民にそれを提示することこそが求められている。

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